コラム「探し物の浪費への考察(3)」(2018年2月26日)

探し物の浪費への考察(3)

環境整備の実施により「探さない」仕組みを構築することで、探し物の浪費がなくなります。「探さない」言い換えれば「探す行為をなくす」ことが最も効率的です。しかし、探し物が発生した場合、どうすべきかについても考慮しておきます。それは「紛失してもすぐ見つかる」仕組みにより、保険をかけ緊急の事態に対処するものです。
また、探索時間を最小限にすることも重要です。本の目次のように、モノや書類に対しても検索システム、一覧リストや置き場マップなどがあると目的のものをすぐ見つけ出すことができます。
これらの行為を3つの象限で捉えると、次の表の通りとなります。

今回は探すことが多いモノ・書類に焦点を当てて「②紛失してもすぐ見つかる仕組み」を紹介します。
(1)「モノ」の紛失対策
モノに電子タグをつけることで、すぐ見つけることができます。一般的なRFIDタグへの電源供給の方法には、「パッシブ型」「アクティブ型」の2種類があります。
パッシブ型は、リーダから送信された電波を受けてタグ内のICチップの回路が起動され、ID情報をリーダ側に返す仕組みを持ちます。構造が単純なため比較的製造コストを抑えることができ、大きさも小さくすることができますが通信距離が短いことがデメリットです。例えば、IC乗車券や社員証、クレジットカードなどで、資産管理や物流・販売・追跡などさまざまな用途として製品に組み込まれた製品もあります。
一方、アクティブ型はタグ内に自らが電源を持ち、電波を送信します。このため通信距離を求められる状況においては威力を発揮しますが、パッシブ型と比較して高価であり、定期的(3〜5年程度)に電池残量の確認や電池の交換が必要です。
話題のTrackR pixelはアクティブ型タグで100円玉サイズの大きさであり、音だけでなくLEDライトでアイテムの場所を知らせてくれます(スマホと連動)。クラウドロケートでアプリに表示される地図からアイテムを探すことができます。

参照:https://www.thetrackr.com/jp/

(2)書類の紛失対策
①QR活用による紙文書の運用効率化
紙で配布して回収する書類や日々の報告など、仕分けや管理が必要となる紙文書を、スキャンするだけで自動的に仕分けし、電子化して保存できます。これにより、「仕分け」「ファイリング」する手間がなくなり、さらに後工程を効率化できます。
■富士ゼロックス社の「業務別らくらくスキャン」システム

参照:http://www.fujixerox.co.jp/solution/menu/sol023/

②積層RFIDタグ活用による「書類管理システム」
書類についてもRFIDにより効率よく、安全かつ容易に管理が可能になります。積層RFIDタグを活用した日立の「書類管理システム」では、書類や図書などの用途向けにアンテナ形状を従来のRFIDタグから変更させることにより、約1~2mm間隔で積み重ねても同時に読み取ることが可能なRFIDタグです。

■重要書類管理システムのメリット

参照:
http://www.hitachi.co.jp/products/it/traceability/case_study/juyosyorui_kanri/index.html

以上のようにデジタルによるモノの追跡管理は日進月歩で進化しています。これらをうまく活用することで、「探す」ムダは解消され、情報漏えい防止につながります。次回は「③すぐ探索、検索できる」創意工夫例を紹介していきます。

コラム「探し物の浪費への考察(2)」(2018年2月15日)

探し物の浪費への考察(2)

前回の考察では、探し物が発生する主要因は「元に戻さない」ことでした。その解決策は、「定位置管理」「元に戻す習慣化」「モノの総量管理」の3つであることを述べました。
これらの手段が整理整頓であることは誰もが理解しています。しかし頭で理解することと、行動することは別次元です。探し物の浪費がなくなれば、本来の仕事へ集中でき、仕事はうまく流れます。納期遅れも解消でき社内からもお取引先さまからも信用を得られ、会社の発展に貢献できます。このように探し物をなくすことは仕事のスムーズな流れをつくる大切な要素なのです。
「仕事の流れ化」を阻むものが「停滞のムダ」であり、「探す」「手待ち」「やり直しする」「転記する」「確認する」「割り込み仕事で中断する」などが挙げられます。結果的に余計な労力となり、残業時間が発生し、心身ともに疲弊します。中でも「探す」行為が1日数十分、浪費していることから、「仕事の流れ化」を念頭に置いた環境整備を行うことを最優先すべきです。

環境整備の一連の流れは、
分ける:要るモノと要らないモノを分ける。

捨てる:要らないモノを捨てる。

整える:要るモノを使いやすいように配置する。

流れる:業務の流れとモノの流れをマッチさせる(作業動線をつくる)。

保つ:モノの定量、保管・廃棄ルールなどを決める。
定期的に掃除し、きれいにする。
の5つのステップによる流れ化です。

物事はシンプルにし、わかりやすくすることで、行動が容易になります。そして行動を促すには、行動するための時間を割り当てることです。仕事のスケジュールに組み込めば否が応でもやらざるを得なくなります。行動の源泉は決意でなく、日々のスケジュール項目として業務時間に割り当てるだけです。現在のムダな労力をなくし、後に可処分労働時間をつくるための環境整備を行うのです。
またモノや仕事環境だけでなく、現在足枷となっている業務のマイナス要素をなくすことも後の可処分労働時間を生み出します。よく現場では多忙だからそんな余裕はないと必ず反対勢力が存在します。しかし仕事に追われており、余裕がないからこそ、一旦立ち止まってマイナスや障害の要因を抽出し、楽してより生産性が上がるよう現在の業務を清算すべきです。仕事の流れ化の「分ける」行為は業務については、要る業務と要らない業務を分けることです。仕事に追われている部署ほど、業務の棚卸しは重要な解決手段です。仕事の流れ化の実現にはモノや環境と同じく、業務そのものも避けて通れないからです。

探し物の浪費は単なる整理整頓ができていないことの裏返しというより、モノや仕事の流れをコントロールしていないことに原因があります。余計なモノに振り回されないためにも、まず環境整備による流れ化を実践することをおすすめします。

コラム「探し物の浪費への考察(1)」(2018年1月30日)

探し物の浪費への考察(1)

統計によると、人は1日10分、成人人生の3680時間、実に153日間を探し物に費やしているといいます。一生で半年近くも探し物をしていることに驚きます。またイギリスの民間の保険会社が成人男女3000人を対象に行った調査によると、探し物をする回数は平均で1日9回、年間3285個にのぼっています。20歳からの60年間で、のべ20万個近いアイテムを見失う計算になります。ここでは探し物の時間について調査されていませんが、1日9回であれば、少なくとも1回当たり3分で試算しても1日27分になり、成人人生の9936時間、414日と1年間を軽く超えてしまいます。
これらの実態から「探し物をなくす」ことはビジネスにおいても、プライベートにおいても重要課題です。基本的に整理整頓ができていないと探し物が頻発することは誰もが理解しています。仮に整理整頓されているとして、探し物が発生する要因は何でしょうか。ゼロベースから考えると、定位置管理でのモノ探しは、元に戻さないことが一番に挙げられます。職場が乱れる要因の一つである、仮置きがその筆頭格です。またモノや書類を紛失しやすい状況はモノ環境の煩雑さにもあります。誰もが簡単に元に戻せる置き場や環境づくりが必要なのです。モノの指定席や書類の保管場所が決まっていても、元に戻しにくいのであれば「ルールの徹底」という一元論では解決は不可能です。つまり探し物をなくすには、①誰もがわかる定位置管理、②元に戻す習慣化、③モノの総量管理の3つがリンクされていることです。①は整理整頓の技術、創意工夫が必要であり、②は誰でも元に戻せる「見える化」→「元に戻す」を習慣化すること、③についてはモノや書類が増えない定量の仕組みづくりが求められます。
探し物の問題は仕事だけに特化することでなく、プライベートの要素まで踏み込んで当事者意識をより持たせることで各自が真剣に対処しようとします。探し物の時間は私生活まで及んでいます。
仮置きがなくなり、元に戻すことが守られると探し物はなくなります。ミーティングにおいても家庭での探し物をなくす解決方法をビジネスでも十分に応用することです。探し物は環境、収納場所、生活(作業)動線など、二者にすべてが共通するからです(下記参照:「探し物が多い人の特徴はビジネスもプライベートも共通」)。また探し物をなくすことは、ムダがなくなり正味作業時間の向上から、一人ひとりの業務処理能力を約7%向上させるのです:1日8時間/1日7.5時間(▲約30分の探す時間)。

(参照)探し物が多い人の特徴はビジネスもプライベートも共通

コラム「生産性向上のカギは「やめる」「なくす」にあり」(2018年1月18日)

生産性向上のカギは「やめる」「なくす」にあり〜コンビニに学ぶ

 カイゼンにおいて最も効果が高いのは「やめる」「なくす」ことだ。人手不足が深刻なコンビニ業界において、ローソンが無人営業に一部店舗で導入する考えだ。つまり人手をなくす発想である。

 ローソンは4日、深夜や早朝の午前0時~5時は従業員が接客せずに「無人」で決済できる店舗を来春から導入する、と発表した。首都圏の2~3店舗で実験的に始める予定だ。コンビニエンスストアでは人手不足が目立ってきており、解消のために新型店を導入することにした。
 買い物をする人は、あらかじめスマートフォンのアプリをダウンロードする。コンビニ入り口でアプリを起動させ、センサーにかざすと入店できる。
 店内では商品を手に取り、アプリを起動させたスマホで商品のバーコードを読み取らせると、自動的に決済される。「LINEペイ」などの決済サービスを使う。買い物を終えると、無人のレジにあるタブレットにスマホをかざし、店を出る。
 店頭は無人だが、裏手で商品在庫の管理などの作業をしている従業員が1人いる。店内で不正がないかは増設したカメラで監視する。この時間帯は、たばこや酒類の販売はしない。
 レジ横のから揚げなどの商品は、ボタン一つで顧客が調理できる機械の導入を検討している。
 4日に実験店舗を公開したローソンの竹増貞信社長は『デジタル技術を駆使して省力化し、24時間営業をしっかり守っていく』と話した。将来はスマホでの決済を深夜以外の時間帯にも広げて、レジの混雑緩和につなげたい考えだ。(朝日新聞朝刊 2017年12月5日)

ファミリーマートでは「24時間営業はケース・バイ・ケースでいい」(沢田貴司社長)として、実験的に一部の店で24時間営業をやめている。

 またセブンイレブンでは、店舗での検品作業をなくす実証実験に取り組んでいる。井阪隆一社長は、「実証実験では、これまで店舗で行っていた検品作業を、物流センターで店舗ごとの納品単位でできないかを検証している」と述べた。
店舗では、発注商品が注文どおりに納品されているのか、検品用スキャナーターミナルを用いて確認しているが、検品作業に時間がかかっていた。
 井阪社長は、「検品作業を物流センターで行うことで、物流の効率化と店舗オペレーションの効率化ができる。自動検品になれば、1日3人時くらいの削減になる。検品作業は大変な作業であり、お店での働きやすさが向上する。人件費を下げるのではなく、ういた時間で接客をしてもらいたい」と、実験の狙いを説明した。(流通ニュース 2017年10月13日)

 以上の例では、従来「レジには人手が必ず発生する」「店舗での検品作業は必要府不可欠」といった決してなくならない作業と思われていたものにメスを入れ、なくす方向へ取り組んでいることである。実際サービス産業の職場でどれだけ業務を「やめる」「なくす」ことに挑戦しているだろうか。最も困難なことに注力する企業が生産性をダントツに向上させるものだ。

 下記の表はいくつかの業務の廃止例である。

 今まで当たり前であった業務に付加価値があるのかどうか、ゼロベースから問い直すことが重要である。判断基準はその業務がお金を生んでいるかどうかである。単純にお金を生まないと判断すれば、即やめてしまえば良い。「案ずるより生むが易し」〜物事はシンプルに考えて実行すべきである。生産性の低い企業はプロセス重視に偏っており、仕事を努力と時間で評価する。逆に生産性の高い欧米のトップ企業はすべて結果重視である。顧客満足が収益に直結する。  
 例えば会議が情報交換に終わっているのであればやめるべきだ。情報交換を事前のメールや掲示板で済ませる。会議は意思決定の場であり、目的から逆算して業務の再構築を図ることである。生産性を高めることが企業の競争力の源泉であり、残業の問題も解決でき、会社と社員が共にハッピーになる手段となる。

コラム「今年のトレンド予測」(2018年1月5日)

新年明けましておめでとうございます。
2018年が、みなさまにとって輝かしい年になりますことをお祈り申し上げます。
昨年は、本コラムをご愛読いただきありがとうございました。
本年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2018年の<働・学・食・住・美>トレンド予測

2018年が幕を明けましたが、今年は、どのような年になるのでしょうか?
リクルートホールディングス社は、 2017年12月12日に、毎年恒例の「2018年のトレンド予測とトレンドを表すキーワード」を発表しました。これは、美容、アルバイト・パート、人材派遣、社会人学習、人材マネジメント、飲食、婚活、住まいの8領域における2018年の方向性を予測するものですが、この中から7領域を選び、2017年の予測と比較することで、昨年~今年のトレンド予測の特徴を考えてみました。

◆トレンド予測の特徴
2017年の予測を見ると、必ずしもその通りになったとはいえませんが、少子高齢化や待機児童問題、働き方改革、そしてSNSなどが背景になっているキーワードが多く見られました。
2018年については、中でも、「働き方改革」に関連する予測が多い印象です。
実際、社会人学習領域のキーワード「まなミドル」を先取りする形で、資格取得に向けた専門予備校の1つTACの株価は夏場から上昇基調となり、11月に入ってからは約3年ぶりの高値を付けています。

また、人材・キャリア領域の予測には、働き方改革に加え、人財難時代の働き手確保対策としてのシニアの活躍に対する期待が色濃く反映されています。

◆人財確保対策としてのシニア人財活躍推進
2025年に団塊世代が後期高齢者となり、2035年には人口の約3人に1人が65歳以上、206の年には人口の
約40%が65歳以上の超高齢社会に突入します。一方、15歳~60歳の生産年齢人口は減少の一途を辿り、
2060年には現在の60%弱にあたる4,400万人程度になると言われており、そのような中で、2017年11月の有効求人倍率は1.56倍とバブル期を凌ぐ人財難時代を迎えています。

①働き続けたい60代が増加~経験やスキルを活かした働く場の不足が課題
肉体的に働き続けられると答えた60代は92.1%。雇用形態にかかわらず、経験やスキルを活かせる実務でやりがいを持って働きたいと考えています。深刻な人財難は2018年以降も続くと想定される中、中途採用においては、豊富な経験、専門性、適応能力の高さが求められています。

②2017年に入り、シニアの応募者数、求人数ともに急増
シニアの応募数は2015年4-6月期と比較して2017年4-6月期は約2倍に増加。
「シニア」と「活躍」をキーワードに含む求人数は2015年4-6月期と比較して2017年4-6月期は約10倍に増加。
また、働きたいシニアのうち、仕事を探したがあきらめたと答えた人は34.9%。就労意欲の高いシニアが増加して求人数も増えているものの、マッチングがうまくいっていない現状があります。

◆学びに意欲的なミドルの増加
ミドル層は、ポスト不足とミドルへの教育投資額減少による現状による閉塞感を持っており、経済面・雇用面の将来展望への漠然とした不安を抱えており、学習意欲はその解消策の一つになっています。
さらに、社会人の学び直しの促進を目的に創設された「専門実践教育訓練給付金制度」の給付金が2018年1月から70%に引上げられ、対象講座が急速に増加。
働き方改革施策としての労働時間削減により拘束時間が減少し、平日の夜や休日に新たに学校に通う時間が生まれたことも、学びによる自己投資に意欲的はミドルが増加した背景になっています。

AI、ロボットによる就業機会の代替が叫ばれている現状、時代のニーズに合う市場性の高い学びにより自身の価値を高める動きは、今後も続くものと思われます。
企業が高い競争力を維持するためには、雇用の確保だけでなく、従業員の能力開発を推進することが、さらに重要になるのではないでしょうか。

コラム「仕事の質はスピードに比例する」(2017年12月25日)

仕事の質はスピードに比例する

このタイトルの解をわかりやすく例えると、テクノロジーによる自動化に挙げられます。工場におけるオートメーションはもちろんのこと、AIによるソリューション、RPA Robotic Process Automation:人間が行うデスクトップ画面上の操作を、ルールに基づいて自動的に再現する技術)によるデータ交換、業務スケジュール管理など、テクノロジーの進化によってスピードが加速度的に早くなり、質はより正確になります。

コンピューターによるテクノロジーに頼らなくても、アナログでのカイゼンにより仕事の質はアップし、スピードは早くなります。なぜならムダを省けば省くほど、時間は短縮され正確度を増すからです。

井原西鶴の「日本永代蔵」巻五に「大豆一粒の光り堂」という話があります。

「大和の朝日の里に川端の九助という小百姓がいた。牛ももたず、馬小屋のような家に住み、年に一石二斗の年貢をやっとおさめ、五十余歳になるまですごしていた。毎年、節分の夜には疫鬼をはらうために戸口や窓に鰯の頭や柊をさし、心祝いの豆をまくのであった。ある年、九助は夜が明けてから豆を拾い集め、その一粒を野に埋めた。すると、夏には青々と葉がしげり、秋には実って一合ばかりの収穫があった。これを溝川のところにまき、毎年繰り返すうちにしだいに収穫がふえ、十年もたつと八八石にも達した。この代金で九助は大きい灯龍をつくらせ、初瀬の街道に立てて常夜灯とし、今も豆灯寵とよばれている。
こういった心がけなので、九助はしだいに家も栄え、田畑を買い集めて大百姓となった。
四季それぞれの農作物に肥料をほどこし、田の草をとり、水をあたえて手入れするので、稲の実りもよく、綿の栽培も順調であった。九助はいつも油断なく働き、そのうえ、万事に工夫をして便利な農具も発明した。鉄の爪をならべた荒おこし用の鍬、調製用の唐箕や千石どおし、さらに後家倒しの異名のついた千歯扱もつくった。また、女の綿仕事の能率化をはかつて唐弓という綿打ち道具をつくって成果をあげ、四、五年のうちに大和にかくれもない綿商人となり、財宝をどんどんたくわえた。 こうして三十年あまりで一千貫目の身代となり、八八歳で世を去った。」

「後家倒し」とは、この川端の九助が考案した「千歯扱き」です。
株式会社クボタHP「くぼたのたんぼ」によれば、次のように「千歯扱き」を紹介しています。

乾燥させた稲の穂先から籾を落とす作業が脱穀 (だっこく) です。稲扱き (いねこき) とも言います。「丁寧」と「能率」という矛盾する二つの要求を満たすために、さまざまな工夫がこらされてきました。
近世前期には竹製の扱き箸 (こきはし) が使われていました。竹を箸のようにした道具で、一日に扱く籾の量は男性が12束、女性が9束ぐらいだったそうです。

千歯扱きは元禄年間に発明された画期的な農具です。最初は麦を脱穀するための竹製の歯でしたが、やがて鉄の扱き歯に改良され、稲の脱穀用として普及しました。鉄の歯の隙間に稲の穂先を入れて、引き抜くと籾だけが落ちます。籾が付いたままの小さな穂先が多く出るので、さらに唐棹 (からさお) で何度も叩いて籾を分離します。粒々辛苦と言って、一粒一粒が苦労して育てたものです。一粒も無駄にはしません。
その後、足踏脱穀機、動力脱穀機と発達します。1時間当たりの作業能率は千歯扱きで約45把(元禄時代)、足踏脱穀機で約250把~300把(大正時代)、動力脱穀機では600把以上と伝えられています(昭和初期)。


参照:http://www.tanbo-kubota.co.jp/foods/tools/13.html

そのため、脱穀作業の臨時雇いの必要がなくなり、女性の賃仕事であった脱穀作業が無くなったため「後家倒し」と呼ばれた所以です。
足踏脱穀機が大正時代の発明であることから、元禄時代から約200年間も脱穀の主道具であったことを考えると、九助の発明がいかに素晴らしいものかが理解できます。つまり、「丁寧」=質、「能率」=仕事効率、スピードのそれぞれが矛盾することなく、一挙両得の効果を上げています。

また、仕事の質は仕事のやり方、段取りなどでも向上することができ、スピードは早くなります。

リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」では、週当たりの労働時間の把握に加えて、仕事の分解を試みています。具体的には、それぞれの仕事を、(1)本来の担当業務で成果と直結している仕事、(2)周辺的な雑務、(3)待機や客待ち等の手待ち時間に分けて、合計が100になるように割合を調査した結果が図表1です。業種により仕事の割合はまちまちですが、平均的には、本来業務74.3%、周辺雑務17.9%、手待ち時間7.8%になります。本来業務以外が約25%を占めており、そこに仕事効率化の余地があることがわかります。

参照:http://www.works-i.com/surveys/panel-surveys.html

今回の例では本来業務をテクノロジーやカイゼンで生産性向上としたものです。しかし仕事には本来業務以外が約25%もあり、これをなくせば生産性は約33%も向上するのです。

つまり仕事の効率化を図り、抜本的に生産性を向上する視点は、
① 本来業務のIT化、カイゼンの実践
② 周辺雑務の撲滅
③ 手待ち時間の解消
の3点にあります。
①では生産性が数倍から数十倍に、②と③を合わせて約33%向上します。前者では投資を必要とするものがありますが、充分投資額を回収し、より利益をもたらします。後者では投資せずにムダを省くことができます。

これらは来年のコラムでの課題として、考察していきます。
今年最後のコラムとなり、読んでいただきました皆様に、厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

コラム「データ分析に潜む罠」(2017年12月15日)

データ分析に潜む罠

 企業経営を継続させるには一定の収益が必要だ。どれだけコストを抑えようが収益がなければ経営は成り立たない。また収益の柱があったとしても、世の中の変化に追いついていかず倒産する企業さえある。そのため企業は収益の確保には血眼になる。売上げが落ちてくると、「なぜそうなったのか」とデータ分析に力を入れてくる。従来の理論に基づいて、売上げ減少要因をひっくり返せば、売上げを回復することができるものと信じ込む。そうやって、データ分析と会議が頻繁に発生してくる。
 例えば流通サービス業がそうであるように、ABC分析(1)や顧客分析に力を入れる。前者では、単品別に売れ筋商品や死に筋商品を把握して、売れ筋商品は売場や在庫数を増やし、死に筋商品はカットしたり、在庫数を減らしたりする手法を行う。後者では、顧客の属性分析、購買頻度、購買金額、上位顧客の支持率の高い商品の抽出などを行う。

 それで売上げが維持できるのであれば、流通サービス業の経営は安泰になる。例えば日本チェーンストア協会におけるスーパーマーケットの販売額は2006年が14,021,663(百万円),2016年12,971,782(百万円)であり、10年間で7.5%の減少である。総人口は127,901千人から126,933千人へと▲0.8%の減少であることから、決して人口減少が売上減の要因でないことがわかる。実際は、売上げ減少額1,049,881(百万円)の約7割(▲705,543百万)を占める衣料品が大きく落ち込んでいることが主要因である。衣料品はユニクロやしまむらなどに顧客が奪われていることだ。ユニクロはSPA(製造小売業)であり、しまむらは各アパレルメーカーから仕入れて小売する業態である。構造的にユニクロに勝てないのはわかるが、従来型の取引で運営するしまむらにも太刀打ちできないでいる。どのチェーンストアもデータ分析は行ったが売上げ回復に至っていない状況である。

 日経MJ(2017年11月3日号)によると、
 「100円ショップ大手のセリアが客の性別をやめた。売れ筋だけで棚を埋めて売り上げを伸ばしたいセリアにとって、特定の客にしか刺さらない商品は死に筋ともいえる。今の消費者の好みに年齢は関係ない。そんな消費者に受けるヒット商品をつくるには、顔の見えないデータではなく、SNS(交流サイト)や街中の消費者の生の姿をみていくことが重要という。
 既存店売上高が17年4~9月期も毎月プラスと好調ななか、客層分析を捨てた理由について、セリアの河合映治社長は『雑音を取り除くためだ』と話す。誰が何を買ったのかというデータがなぜ雑音なのか。『重要なのは全体の売れ行きであって、(売り上げはさえなかったが)特定の客層には深く刺さったという言い訳になるようなデータが存在すると、優先順位を間違う』と強調する。
 小売り各社が客層データを収集・分析する狙いは、ターゲットとする年代の購買が多い商品の事例をもとに次のヒット商品の開発につなげたり、来客頻度の高い常連の好む商品を店舗ごとに品ぞろえしたりすること。その客層分析を切り捨てたセリアは、商品開発については生身の消費者の動きに視線を注ぐ。
 セリアと一緒に商品開発を手掛ける雑貨メーカーもスタンスは一緒だ。文具メーカーのサンノート(大阪府富田林市)の野口智史経営企画部長は『商品開発で重視するのは、なぜ売れていて、その背後にどんな欲求があったのかを突き詰めること』と話す。」としている(要約)。

 セリアの商品戦略において他小売業はもちろんのこと、異業種においても大変参考になる。客層分析はCVS業態であるファミリーマート、ローソンでもそれぞれ今年7月、11月から廃止している。
 小売業の利益の源泉は商品であり、製造業では製品、サービス業ではサービスそのものである。どの企業においても付加価値を生むものは主力のモノ・サービスに絞られる。

「商品開発はいつでも賭け(河合社長)。その賭けに対して膨大なデータを収集、分析する時間や費用もかけても、過去の結果から有意義な答えが見つかる保証はない。「答えが出ない問題は解かない」(河合社長〜日経MJ 2017年11月3日号)。

 ここで気づくのは答えが出ないことに労力を費やしているのではないかという問題提起である。このジレンマに陥ってしまうとなかなか抜け出すことはできない。答えを見つけるまで試行錯誤し、会議や打ち合わせが頻繁になり、上司からの叱咤激励により辻褄を合わせようとする。つまりデータ分析でも付加価値を生まなければ、ムダそのものであり廃除しなければならない。

 商品やサービスがお客さまに受け入れられるのは、ニーズがあるからである。そのニーズは大多数の需要につながるものである。ニーズのヒントは現場そのもの、SNS、不満の解消などにある。データ分析に振り回されずに、ここに企業の経営資源を投入することで活路が開けてくるのだ。

(1)ABC分析:構成比率の高いものから順にデータを並べ、たとえば、売上げ構成比80%までの項目をA(売れ筋商品)、売上げ構成比80%から95%までの項目をB、その他をC(死に筋商品)というようにランク付けし、パレート図を使って項目の重要度を分析する方法。

変化に強い組織づくり (コラム2017/12/07)

変化に強い組織づくり

「変化に対する柔軟性」は、現在のマネジメントのキーワードです。 「女性活躍推進」「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性に起因する様々な排斥や区別を取り払い、誰もが対等な関係で関わり合い、社会や組織に参加する機会を提供することを目指す」 )」「変化を素早くキャッチアップする製品・サービス開発体制」「優秀な人財の確保と定着」など、変化への対応力を試される経営課題が山積しています。

組織も個人も「変化に対する柔軟性」を備えることの重要性を認識しているにも関わらず、なかなか変わらないのは、 なぜでしょうか? そして、どのようにすれば、変化に強い組織、個人になれるのでしょうか?

◆変化への柔軟性に影響を与えるメンタルモデル

価値観や経験、文化、慣習に基づいた独自の思考のことを【メンタルモデル】と言い、私たちの思考や判断は、すべて自身のメンタルモデルを基盤にしています。 変化に対する柔軟性が高い人は、「変化は必ず起こるもの」「変化を受け容れ、 対応することでチャンスが生まれる」というメンタルモデルを持っています。 そして、このようなメンタルモデルの人たちが、イノベーターとなります。

一方、変化を嫌い、従来の経験から得たものから 脱却することが難しい人たちがいます。 彼らは、過去の成功体験(あるいは、失敗体験) からの学びを【考え方、判断、行動パターン】として 意識・無意識的に刷り込んでいますので、変化を認め、対応することが容易ではなく、場合によっては 抵抗勢力になります。

問題は、メンタルモデルやその人のパターンが、他者からは 見えないということです。 さらに、自分自身ですら意識していない場合もあります。 メンタルモデルを変えることが難しいのは、そのためです。

◆変化を嫌い、挑戦を避けるメンタルモデルがどのように形成されるのか?

サーカスの象が逃げ出さないための訓練方法をご存知でしょうか?子象を太い杭に鎖でつなぎ自由な動きを制限することにより、象は、鎖の半径内でしか行動できない、鎖を切って自由に行動しようと挑戦するのは無駄な努力である、というメンタルモデルを形成します。すると、象が成長して力が強くなり杭を抜ける状態になっても、杭を抜いて逃走することを試みさえしなくなり、自由な行動を諦めてしまいます。

このように、ストレスの回避が困難な環境に長期にわたって置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるのです。このことを、心理学者・マーティン・セリグマンは「学習性無力感」と名づけました。子どもの頃から既成概念に合わないような経験をしたことがない、あるいは、そのような機会がなかったり、機会はあっても挑戦することを許されてこなかったりした人たちは、事例のないことに挑戦することへのリスクを過大評価する傾向が生まれます。

 

◆挑戦を避ける人の免罪符

変化に対応して挑戦することを避けたい人は、以下のような免罪符を持っています。


今まで会社に貢献してきたのだから、現状を評価されるべき
②少しくらい報酬が減ってもリスクを負いたくない
③自分ひとりくらい変わらなくても大勢には影響がない
④自分のやり方を変えることに違和感を感じる。
⑤求められていることは理解できるが、やり方がわからない。

 

変化に強い組織づくりの第一歩

人の言動はメンタルモデルに基づいており、メンタルモデルは、長い時間をかけて形成されたものであること、そして、挑戦を避ける人は、自分なりに正当性のある免罪符を持っていることをご理解いただけたでしょうか?このような理解の基に、変化に強い組織づくりの第一歩を提言いたします。
全員を変えようとするのではなく、上記免疫モデルの③~⑤の人をターゲットに、以下の機会を設定します。

その場合、彼らが懸念するリスクを最小限にとどめて挑戦できるよう、変革に理解のある上司をプロジェクトのスーパーバイザーとして任命し、頻繁にフィードバックができるチームを作ります。
1.会社が置かれている現状と近い将来の社会・業界・顧客の変化について話し合い、危機感を醸成する
2.自身のメンタルモデルを認識し、メンタルモデルが言動に与える影響を理解する
3.変革リーダーとして周囲に影響を与えることにより何が変わるのか、具体的なイメージを持つ
4.変化をチャンスに変えるための問題解決・意思決定スキルを身につける
5.小さなチャレンジプロジェクトを始動
上記「問題解決・意思決定スキル」を活用し、チームとして小さなチャレンジ(改善・改革)を実行する機会を提供する

 

働き方改革〜「オフィスも働き方改革(6)」(コラム2017/11/30)

“環境音と仕事の生産性の関係”

環境音は仕事の生産性と密接に関わっていることがいくつかの研究成果で把握できます。

ドイツ連邦環境機関のシニアリサーチオフィサーでもあるWolfgang Babisch博士によると、科学者はノイズを「不必要な音」として定義しており、耳障りなだけでなく、心理面と脳にも負担を与えるものしています。

Babisch氏によると、ノイズそのものの性質もありますが、変動するノイズは一定で動くノイズレベルよりも人を苛立たせ、内容がない人の会話はさらに広帯域のノイズよりも気が散り易いと言います。

「認知的に、その中でも最も気が散る音は人の会話だと多くの研究調査が示しています。人間は人の会話に対して約1.6の周波数帯域を持っていて、もし、誰かの会話が聞こえてきたら、聞こうという意志が働かなくても、1.6の周波数の内の1.0を使ってしまうことになります。これには耳にフタをするわけにはいかないのです。つまり、残りの0.6だけで自分の内なる声を聞くことになるのです。」

今日、オフィスで遂行されている仕事から起こるノイズレベルも問題です。あるオープンレイアウトのオフィスでは、そのノイズ音は60から65デシベルといわれています。そのレベルは混雑している高速近くの85デシベルと比べると低く、冷蔵庫の音の40デシベルと比べると高くなります。しかし、知覚レベルでは仕事に集中できないことは確かです。ドイツではドイツエンジニア協会が仕事タイプによるノイズ基準を設けています。オフィスでの単純なプロセスワークには70デシベル、知的作業には55デシベルという基準を設定しています。ナレッジワークというのは複雑で創造的思考、意思決定、問題解決、綿密なコミュニケーションなどを伴う作業と定義しています。特にこのナレッジワークで、社員の成果が向上すれば、企業が前進することは間違いありません。

ナレッジワークのために推奨されるノイズレベルは1人での作業に加え、討論やミーティングにも関係してきます。実際、上記の協会は医者が手術を行うノイズはオフィスワーカーが1人でまたは他者と一緒にナレッジワークをするのと同じレベルの基準を設定しています。

■「最も気が散る音は人の会話だと多くの研究調査が示唆しています。」

オープンレイアウトのオフィスでの通常のノイズレベルは60から65デシベルで、集中するには騒がしく、話す声が邪魔するため、効果的なコラボレーションをも妨げる可能性があります。もし、約1メーター離れて1対1の会話をする際に人が普通に話す音声のノイズレベルは約60デシベルです。つまり、同範囲でのノイズレベル、例えば、まわりで人が話していると、音声が邪魔され、すべての言葉を聞き取ることが不可能になります。「それにも関わらず、話していることが理解できるのは人間に備わった大脳皮質の機能によるものです。しかし、それは活発なプロセスでもあるため、長時間にわたり慢性的にノイズにさらされることでこの効果は期待できないばかりか、その機能にまで悪影響を及ぼすことになります。」と彼は言います。

言い換えれば、つまり、音響対策が悪い環境ではワーカーは他者の話を聞かないように努力するのと同じぐらい、他者の話を聞こうとすることで容易にストレスにさらされてしまうということです。つまり、すべての面でマイナスに働くということになります。

参照:
https://www.steelcase.com/asia-ja/research/articles/topics/collaboration-privacy/much-noise/

これらのことは誰もが経験しています。カフェやレストランなどで、やたら声の大きい人がいると、忽ち快適性は失われストレスに転化します。オフィスも同様です。環境音対策は働き方改革にとって必要不可欠のものです。環境音は空調や照明などと同様、重要な環境であり生産性の要因です。

また静寂であれば集中できるかというと決してそうでないことです。アメリカで環境音に関する研究調査結果が出されています。

50デシベル程度の静かな環境(例えば図書館など)で作業をするよりも、70デシベルのノイズがある環境(カフェなど)の方がクリエイティブになるというのです。

ただし85デシベルの高レベルのノイズになるとクリエイティブは発揮できなくなります。適度なノイズは作業の生産性を上げるのに重要なファクターなのです。

■音環境ソリューション
それではどのように環境音を設定すればよいのでしょうか。
Treasure氏はこの状況を解決する方法は様々な「場」を与えることだと言います。作業内容やスペースを使用するユーザーにあわせて音響を考慮することです。ワーク環境はただ単に外観だけではなく、人間のあらゆる感覚、特に聴覚に配慮することが重要です。「音に注目することはスペースを設計する上での新たなツールになります。意図的に計画された音響はスペース全体をより生産的な場へと変化させます。」とTreasure氏は述べています。

環境音のソリューション企業に相談することをおすすめします。例えば、コクヨは「サウンドマスキングシステム」を提案しています。

オフィスにおいて、間仕切りを通して隣室の会話が洩れてきたり、また大きなオープンオフィスで遠くの人の会話が非常に小さなレベルだが聞き取れてしまうというような、オフィスのセキュリティや生産性が阻害される場面がしばしば見受けられます。
サウンドマスキングシステムは、空調音のような背景音をわざと部屋に流すことにより、隣室からの音漏れや遠くからの小さな音を聞こえなく(マスク)することで、オフィスのセキュリティや生産性を保とうとするものです。

参照:http://www.kokuyo-eng.co.jp/products/sound_masking.html

働き方改革〜「オフィスも働き方改革(5)」(コラム2017/11/21)

“オフィスの広さと香りの相乗効果”

東京都立科学技術大学の川上 満幸教授, 白井 朋実教授による研究論文『VDT作業における適正作業環境の設計要因』によると、VDT作業の適正な作業環境要因として、香り(濃度20%の覚醒作用)と、オフィスの大きさ(面積:4m×4m×高さ:2m)の重要性とその相乗効果が認められたとしています。(1)

論文を要約すると次のようになります。
■実験の内容
(実験の内容)
実験の対象にした作業は3桁の加減算式を被験者に計算させ、その答えを座位姿勢でキーボードにより入力する作業である。被験者は常にCRT画面を注視している状態であり、入力はブラインドタッチによるものとする。
実験の一連続作業時間は60分間とし、この作業時間中の総解答数、誤答数および脳波の出現量を測定する。作業の前後には疲労自覚症状調査、眼精疲労検査を行う。また、サーカディアンリズム(生物に備わる昼と夜を作り出す1日のリズムのこと)を考慮し, 実験を行う時間帯は同時刻となるようにする。なお、実験室内の環境は、平均室温21°C,平均湿度43%である。

(被験者)
被験者はランダムに抽出した眼、鼻、脳波ともに異常のない、男子21〜23歳の5名(平均:22歳)で、実験の対象作業には十分に習熟させる。

(実験条件)
実験の条件は、オフィスの大きさを縦2m×横2m,縦3m×横3m,縦4m×横4mの3条件(各条件:高さ2m)に、著者らのこれまでの研究結果から最も効果的であった、濃度20%の覚醒作用を有する香りを与えた場合(+FR)と与えない場合の2条件を組合せた計6条件である。

(香り)
香りの種類は覚醒作用を有する代表的なものとして,ジャスミン,イラン・イラン,ローズ,ペパーミントの4種類である。実験で使用した香りは、事前に被験者にアンケートを行い、この4種類の中から被験者の好みにより選択させる。被験者が選択した香りの種類は、ジャスミン 3名,ペパーミント1・2名である。

■実験の結果
① オフィスの大きさによる誤答率
図8の通り、オフィスの大きさが3m×3m以上で誤答率が少なくなる傾向にあることがわかる。

② 香り
図11は香りがない場合の誤答率、図12は香りがある場合の誤答率である。香りを使用することで誤答率が減少していることから、その相乗効果が認められた。

(結言)
VDTにおける適正な作業環境要因として、
1)作業空間としてのオフィスは適正なサイズが存在する。
2)濃度20%の覚醒作用を有する香りとオフィスのサイズ(4m×4m×2m)は、作業能率と品質の向上、ならびに作業負担の軽減に寄与できる重要なファクターであり、その相乗効果に期待できる。しかし、この指摘したサイズは実験結果からの値であり、実務で適用する場合は同帰式(例:図11~図12)を参考にして、オフィスのサイズを決定するのが望ましい。

■大手ゼネコンによる香りの実験
また大手ゼネコンでもオフィスにおける香りの実験を行っています。パソコンの入力作業が中心のワーカーが在籍するオフィスに空気清浄機を設置し、レモン、ジャスミン、ラベンダーの香りを流したところ、レモンの香りを流したときはキーパンチ・ミス率が45.8%まで低下したそうです。これは鎮静作用のあるレモンの香りがパソコン作業による緊張感を緩和したものと考えられます。同じように会議室で香りを流した実験でも、香りを流さない状態より「会議の能率が上がった」というアンケート結果が得られています。(2)

■オフィスへの活用
以上から、オフィスサイズと生産性は相関があり、オフィスサイズは(4m×4m×2m)のように余裕があるスペースであると生産性が高く、業務ミスも減少します。香りについても社員ニーズにマッチしたフレグランスを用意することで同じような効果をもたらします。前者では、紙資料保管からPCによるデータ保管、不要な什器、備品等の撤去、オフィス形状にマッチした最適レイアウトなどの対策を行い、オフィスサイズの確保が求められます。後者においては、働き方改革における香りの重要性を認識し、試験的でもやってみることをおすすめします。ロビーやショールームの雰囲気作りやイメージアップに、リフレッシュスペースでの疲労回復、会議スペースや執務スペースの倦怠防止、カウンセリングルームでの不安鎮静など、香りの効果を場所別に活用してみるのも良いでしょう。

(参考文献)
(1)『VDT作業における適正作業環境の設計要因』 川上 満幸教・白井 朋実共著 日本経営工学会論文誌 2002年5月
(2) 『オフィスと人のよい関係』浅田晴之、上西基弘、池田晃一 (著) 日経BP社 2007年10月

お電話でのお問い合わせ

受付時間 / 平日9:00-17:00(祝祭日除く)

フォームでのお問い合わせ

研修・セミナー
ご依頼・ご相談はこちら

研修・セミナーご依頼・ご相談はこちら

フォームでのお問い合わせ

お電話でのお問い合わせ

受付時間 / 平日9:00-17:00(祝祭日除く)

人財育成・企業内研修・公開セミナー・女性の立体自立支援の株式会社ビジネスプラスサポート

pageTop