コラム「データ分析に潜む罠」(2017年12月15日)

データ分析に潜む罠

 企業経営を継続させるには一定の収益が必要だ。どれだけコストを抑えようが収益がなければ経営は成り立たない。また収益の柱があったとしても、世の中の変化に追いついていかず倒産する企業さえある。そのため企業は収益の確保には血眼になる。売上げが落ちてくると、「なぜそうなったのか」とデータ分析に力を入れてくる。従来の理論に基づいて、売上げ減少要因をひっくり返せば、売上げを回復することができるものと信じ込む。そうやって、データ分析と会議が頻繁に発生してくる。
 例えば流通サービス業がそうであるように、ABC分析(1)や顧客分析に力を入れる。前者では、単品別に売れ筋商品や死に筋商品を把握して、売れ筋商品は売場や在庫数を増やし、死に筋商品はカットしたり、在庫数を減らしたりする手法を行う。後者では、顧客の属性分析、購買頻度、購買金額、上位顧客の支持率の高い商品の抽出などを行う。

 それで売上げが維持できるのであれば、流通サービス業の経営は安泰になる。例えば日本チェーンストア協会におけるスーパーマーケットの販売額は2006年が14,021,663(百万円),2016年12,971,782(百万円)であり、10年間で7.5%の減少である。総人口は127,901千人から126,933千人へと▲0.8%の減少であることから、決して人口減少が売上減の要因でないことがわかる。実際は、売上げ減少額1,049,881(百万円)の約7割(▲705,543百万)を占める衣料品が大きく落ち込んでいることが主要因である。衣料品はユニクロやしまむらなどに顧客が奪われていることだ。ユニクロはSPA(製造小売業)であり、しまむらは各アパレルメーカーから仕入れて小売する業態である。構造的にユニクロに勝てないのはわかるが、従来型の取引で運営するしまむらにも太刀打ちできないでいる。どのチェーンストアもデータ分析は行ったが売上げ回復に至っていない状況である。

 日経MJ(2017年11月3日号)によると、
 「100円ショップ大手のセリアが客の性別をやめた。売れ筋だけで棚を埋めて売り上げを伸ばしたいセリアにとって、特定の客にしか刺さらない商品は死に筋ともいえる。今の消費者の好みに年齢は関係ない。そんな消費者に受けるヒット商品をつくるには、顔の見えないデータではなく、SNS(交流サイト)や街中の消費者の生の姿をみていくことが重要という。
 既存店売上高が17年4~9月期も毎月プラスと好調ななか、客層分析を捨てた理由について、セリアの河合映治社長は『雑音を取り除くためだ』と話す。誰が何を買ったのかというデータがなぜ雑音なのか。『重要なのは全体の売れ行きであって、(売り上げはさえなかったが)特定の客層には深く刺さったという言い訳になるようなデータが存在すると、優先順位を間違う』と強調する。
 小売り各社が客層データを収集・分析する狙いは、ターゲットとする年代の購買が多い商品の事例をもとに次のヒット商品の開発につなげたり、来客頻度の高い常連の好む商品を店舗ごとに品ぞろえしたりすること。その客層分析を切り捨てたセリアは、商品開発については生身の消費者の動きに視線を注ぐ。
 セリアと一緒に商品開発を手掛ける雑貨メーカーもスタンスは一緒だ。文具メーカーのサンノート(大阪府富田林市)の野口智史経営企画部長は『商品開発で重視するのは、なぜ売れていて、その背後にどんな欲求があったのかを突き詰めること』と話す。」としている(要約)。

 セリアの商品戦略において他小売業はもちろんのこと、異業種においても大変参考になる。客層分析はCVS業態であるファミリーマート、ローソンでもそれぞれ今年7月、11月から廃止している。
 小売業の利益の源泉は商品であり、製造業では製品、サービス業ではサービスそのものである。どの企業においても付加価値を生むものは主力のモノ・サービスに絞られる。

「商品開発はいつでも賭け(河合社長)。その賭けに対して膨大なデータを収集、分析する時間や費用もかけても、過去の結果から有意義な答えが見つかる保証はない。「答えが出ない問題は解かない」(河合社長〜日経MJ 2017年11月3日号)。

 ここで気づくのは答えが出ないことに労力を費やしているのではないかという問題提起である。このジレンマに陥ってしまうとなかなか抜け出すことはできない。答えを見つけるまで試行錯誤し、会議や打ち合わせが頻繁になり、上司からの叱咤激励により辻褄を合わせようとする。つまりデータ分析でも付加価値を生まなければ、ムダそのものであり廃除しなければならない。

 商品やサービスがお客さまに受け入れられるのは、ニーズがあるからである。そのニーズは大多数の需要につながるものである。ニーズのヒントは現場そのもの、SNS、不満の解消などにある。データ分析に振り回されずに、ここに企業の経営資源を投入することで活路が開けてくるのだ。

(1)ABC分析:構成比率の高いものから順にデータを並べ、たとえば、売上げ構成比80%までの項目をA(売れ筋商品)、売上げ構成比80%から95%までの項目をB、その他をC(死に筋商品)というようにランク付けし、パレート図を使って項目の重要度を分析する方法。

変化に強い組織づくり (コラム2017/12/07)

変化に強い組織づくり

「変化に対する柔軟性」は、現在のマネジメントのキーワードです。 「女性活躍推進」「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性に起因する様々な排斥や区別を取り払い、誰もが対等な関係で関わり合い、社会や組織に参加する機会を提供することを目指す」 )」「変化を素早くキャッチアップする製品・サービス開発体制」「優秀な人財の確保と定着」など、変化への対応力を試される経営課題が山積しています。

組織も個人も「変化に対する柔軟性」を備えることの重要性を認識しているにも関わらず、なかなか変わらないのは、 なぜでしょうか? そして、どのようにすれば、変化に強い組織、個人になれるのでしょうか?

◆変化への柔軟性に影響を与えるメンタルモデル

価値観や経験、文化、慣習に基づいた独自の思考のことを【メンタルモデル】と言い、私たちの思考や判断は、すべて自身のメンタルモデルを基盤にしています。 変化に対する柔軟性が高い人は、「変化は必ず起こるもの」「変化を受け容れ、 対応することでチャンスが生まれる」というメンタルモデルを持っています。 そして、このようなメンタルモデルの人たちが、イノベーターとなります。

一方、変化を嫌い、従来の経験から得たものから 脱却することが難しい人たちがいます。 彼らは、過去の成功体験(あるいは、失敗体験) からの学びを【考え方、判断、行動パターン】として 意識・無意識的に刷り込んでいますので、変化を認め、対応することが容易ではなく、場合によっては 抵抗勢力になります。

問題は、メンタルモデルやその人のパターンが、他者からは 見えないということです。 さらに、自分自身ですら意識していない場合もあります。 メンタルモデルを変えることが難しいのは、そのためです。

◆変化を嫌い、挑戦を避けるメンタルモデルがどのように形成されるのか?

サーカスの象が逃げ出さないための訓練方法をご存知でしょうか?子象を太い杭に鎖でつなぎ自由な動きを制限することにより、象は、鎖の半径内でしか行動できない、鎖を切って自由に行動しようと挑戦するのは無駄な努力である、というメンタルモデルを形成します。すると、象が成長して力が強くなり杭を抜ける状態になっても、杭を抜いて逃走することを試みさえしなくなり、自由な行動を諦めてしまいます。

このように、ストレスの回避が困難な環境に長期にわたって置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるのです。このことを、心理学者・マーティン・セリグマンは「学習性無力感」と名づけました。子どもの頃から既成概念に合わないような経験をしたことがない、あるいは、そのような機会がなかったり、機会はあっても挑戦することを許されてこなかったりした人たちは、事例のないことに挑戦することへのリスクを過大評価する傾向が生まれます。

 

◆挑戦を避ける人の免罪符

変化に対応して挑戦することを避けたい人は、以下のような免罪符を持っています。


今まで会社に貢献してきたのだから、現状を評価されるべき
②少しくらい報酬が減ってもリスクを負いたくない
③自分ひとりくらい変わらなくても大勢には影響がない
④自分のやり方を変えることに違和感を感じる。
⑤求められていることは理解できるが、やり方がわからない。

 

変化に強い組織づくりの第一歩

人の言動はメンタルモデルに基づいており、メンタルモデルは、長い時間をかけて形成されたものであること、そして、挑戦を避ける人は、自分なりに正当性のある免罪符を持っていることをご理解いただけたでしょうか?このような理解の基に、変化に強い組織づくりの第一歩を提言いたします。
全員を変えようとするのではなく、上記免疫モデルの③~⑤の人をターゲットに、以下の機会を設定します。

その場合、彼らが懸念するリスクを最小限にとどめて挑戦できるよう、変革に理解のある上司をプロジェクトのスーパーバイザーとして任命し、頻繁にフィードバックができるチームを作ります。
1.会社が置かれている現状と近い将来の社会・業界・顧客の変化について話し合い、危機感を醸成する
2.自身のメンタルモデルを認識し、メンタルモデルが言動に与える影響を理解する
3.変革リーダーとして周囲に影響を与えることにより何が変わるのか、具体的なイメージを持つ
4.変化をチャンスに変えるための問題解決・意思決定スキルを身につける
5.小さなチャレンジプロジェクトを始動
上記「問題解決・意思決定スキル」を活用し、チームとして小さなチャレンジ(改善・改革)を実行する機会を提供する

 

働き方改革〜「オフィスも働き方改革(6)」(コラム2017/11/30)

“環境音と仕事の生産性の関係”

環境音は仕事の生産性と密接に関わっていることがいくつかの研究成果で把握できます。

ドイツ連邦環境機関のシニアリサーチオフィサーでもあるWolfgang Babisch博士によると、科学者はノイズを「不必要な音」として定義しており、耳障りなだけでなく、心理面と脳にも負担を与えるものしています。

Babisch氏によると、ノイズそのものの性質もありますが、変動するノイズは一定で動くノイズレベルよりも人を苛立たせ、内容がない人の会話はさらに広帯域のノイズよりも気が散り易いと言います。

「認知的に、その中でも最も気が散る音は人の会話だと多くの研究調査が示しています。人間は人の会話に対して約1.6の周波数帯域を持っていて、もし、誰かの会話が聞こえてきたら、聞こうという意志が働かなくても、1.6の周波数の内の1.0を使ってしまうことになります。これには耳にフタをするわけにはいかないのです。つまり、残りの0.6だけで自分の内なる声を聞くことになるのです。」

今日、オフィスで遂行されている仕事から起こるノイズレベルも問題です。あるオープンレイアウトのオフィスでは、そのノイズ音は60から65デシベルといわれています。そのレベルは混雑している高速近くの85デシベルと比べると低く、冷蔵庫の音の40デシベルと比べると高くなります。しかし、知覚レベルでは仕事に集中できないことは確かです。ドイツではドイツエンジニア協会が仕事タイプによるノイズ基準を設けています。オフィスでの単純なプロセスワークには70デシベル、知的作業には55デシベルという基準を設定しています。ナレッジワークというのは複雑で創造的思考、意思決定、問題解決、綿密なコミュニケーションなどを伴う作業と定義しています。特にこのナレッジワークで、社員の成果が向上すれば、企業が前進することは間違いありません。

ナレッジワークのために推奨されるノイズレベルは1人での作業に加え、討論やミーティングにも関係してきます。実際、上記の協会は医者が手術を行うノイズはオフィスワーカーが1人でまたは他者と一緒にナレッジワークをするのと同じレベルの基準を設定しています。

■「最も気が散る音は人の会話だと多くの研究調査が示唆しています。」

オープンレイアウトのオフィスでの通常のノイズレベルは60から65デシベルで、集中するには騒がしく、話す声が邪魔するため、効果的なコラボレーションをも妨げる可能性があります。もし、約1メーター離れて1対1の会話をする際に人が普通に話す音声のノイズレベルは約60デシベルです。つまり、同範囲でのノイズレベル、例えば、まわりで人が話していると、音声が邪魔され、すべての言葉を聞き取ることが不可能になります。「それにも関わらず、話していることが理解できるのは人間に備わった大脳皮質の機能によるものです。しかし、それは活発なプロセスでもあるため、長時間にわたり慢性的にノイズにさらされることでこの効果は期待できないばかりか、その機能にまで悪影響を及ぼすことになります。」と彼は言います。

言い換えれば、つまり、音響対策が悪い環境ではワーカーは他者の話を聞かないように努力するのと同じぐらい、他者の話を聞こうとすることで容易にストレスにさらされてしまうということです。つまり、すべての面でマイナスに働くということになります。

参照:
https://www.steelcase.com/asia-ja/research/articles/topics/collaboration-privacy/much-noise/

これらのことは誰もが経験しています。カフェやレストランなどで、やたら声の大きい人がいると、忽ち快適性は失われストレスに転化します。オフィスも同様です。環境音対策は働き方改革にとって必要不可欠のものです。環境音は空調や照明などと同様、重要な環境であり生産性の要因です。

また静寂であれば集中できるかというと決してそうでないことです。アメリカで環境音に関する研究調査結果が出されています。

50デシベル程度の静かな環境(例えば図書館など)で作業をするよりも、70デシベルのノイズがある環境(カフェなど)の方がクリエイティブになるというのです。

ただし85デシベルの高レベルのノイズになるとクリエイティブは発揮できなくなります。適度なノイズは作業の生産性を上げるのに重要なファクターなのです。

■音環境ソリューション
それではどのように環境音を設定すればよいのでしょうか。
Treasure氏はこの状況を解決する方法は様々な「場」を与えることだと言います。作業内容やスペースを使用するユーザーにあわせて音響を考慮することです。ワーク環境はただ単に外観だけではなく、人間のあらゆる感覚、特に聴覚に配慮することが重要です。「音に注目することはスペースを設計する上での新たなツールになります。意図的に計画された音響はスペース全体をより生産的な場へと変化させます。」とTreasure氏は述べています。

環境音のソリューション企業に相談することをおすすめします。例えば、コクヨは「サウンドマスキングシステム」を提案しています。

オフィスにおいて、間仕切りを通して隣室の会話が洩れてきたり、また大きなオープンオフィスで遠くの人の会話が非常に小さなレベルだが聞き取れてしまうというような、オフィスのセキュリティや生産性が阻害される場面がしばしば見受けられます。
サウンドマスキングシステムは、空調音のような背景音をわざと部屋に流すことにより、隣室からの音漏れや遠くからの小さな音を聞こえなく(マスク)することで、オフィスのセキュリティや生産性を保とうとするものです。

参照:http://www.kokuyo-eng.co.jp/products/sound_masking.html

働き方改革〜「オフィスも働き方改革(5)」(コラム2017/11/21)

“オフィスの広さと香りの相乗効果”

東京都立科学技術大学の川上 満幸教授, 白井 朋実教授による研究論文『VDT作業における適正作業環境の設計要因』によると、VDT作業の適正な作業環境要因として、香り(濃度20%の覚醒作用)と、オフィスの大きさ(面積:4m×4m×高さ:2m)の重要性とその相乗効果が認められたとしています。(1)

論文を要約すると次のようになります。
■実験の内容
(実験の内容)
実験の対象にした作業は3桁の加減算式を被験者に計算させ、その答えを座位姿勢でキーボードにより入力する作業である。被験者は常にCRT画面を注視している状態であり、入力はブラインドタッチによるものとする。
実験の一連続作業時間は60分間とし、この作業時間中の総解答数、誤答数および脳波の出現量を測定する。作業の前後には疲労自覚症状調査、眼精疲労検査を行う。また、サーカディアンリズム(生物に備わる昼と夜を作り出す1日のリズムのこと)を考慮し, 実験を行う時間帯は同時刻となるようにする。なお、実験室内の環境は、平均室温21°C,平均湿度43%である。

(被験者)
被験者はランダムに抽出した眼、鼻、脳波ともに異常のない、男子21〜23歳の5名(平均:22歳)で、実験の対象作業には十分に習熟させる。

(実験条件)
実験の条件は、オフィスの大きさを縦2m×横2m,縦3m×横3m,縦4m×横4mの3条件(各条件:高さ2m)に、著者らのこれまでの研究結果から最も効果的であった、濃度20%の覚醒作用を有する香りを与えた場合(+FR)と与えない場合の2条件を組合せた計6条件である。

(香り)
香りの種類は覚醒作用を有する代表的なものとして,ジャスミン,イラン・イラン,ローズ,ペパーミントの4種類である。実験で使用した香りは、事前に被験者にアンケートを行い、この4種類の中から被験者の好みにより選択させる。被験者が選択した香りの種類は、ジャスミン 3名,ペパーミント1・2名である。

■実験の結果
① オフィスの大きさによる誤答率
図8の通り、オフィスの大きさが3m×3m以上で誤答率が少なくなる傾向にあることがわかる。

② 香り
図11は香りがない場合の誤答率、図12は香りがある場合の誤答率である。香りを使用することで誤答率が減少していることから、その相乗効果が認められた。

(結言)
VDTにおける適正な作業環境要因として、
1)作業空間としてのオフィスは適正なサイズが存在する。
2)濃度20%の覚醒作用を有する香りとオフィスのサイズ(4m×4m×2m)は、作業能率と品質の向上、ならびに作業負担の軽減に寄与できる重要なファクターであり、その相乗効果に期待できる。しかし、この指摘したサイズは実験結果からの値であり、実務で適用する場合は同帰式(例:図11~図12)を参考にして、オフィスのサイズを決定するのが望ましい。

■大手ゼネコンによる香りの実験
また大手ゼネコンでもオフィスにおける香りの実験を行っています。パソコンの入力作業が中心のワーカーが在籍するオフィスに空気清浄機を設置し、レモン、ジャスミン、ラベンダーの香りを流したところ、レモンの香りを流したときはキーパンチ・ミス率が45.8%まで低下したそうです。これは鎮静作用のあるレモンの香りがパソコン作業による緊張感を緩和したものと考えられます。同じように会議室で香りを流した実験でも、香りを流さない状態より「会議の能率が上がった」というアンケート結果が得られています。(2)

■オフィスへの活用
以上から、オフィスサイズと生産性は相関があり、オフィスサイズは(4m×4m×2m)のように余裕があるスペースであると生産性が高く、業務ミスも減少します。香りについても社員ニーズにマッチしたフレグランスを用意することで同じような効果をもたらします。前者では、紙資料保管からPCによるデータ保管、不要な什器、備品等の撤去、オフィス形状にマッチした最適レイアウトなどの対策を行い、オフィスサイズの確保が求められます。後者においては、働き方改革における香りの重要性を認識し、試験的でもやってみることをおすすめします。ロビーやショールームの雰囲気作りやイメージアップに、リフレッシュスペースでの疲労回復、会議スペースや執務スペースの倦怠防止、カウンセリングルームでの不安鎮静など、香りの効果を場所別に活用してみるのも良いでしょう。

(参考文献)
(1)『VDT作業における適正作業環境の設計要因』 川上 満幸教・白井 朋実共著 日本経営工学会論文誌 2002年5月
(2) 『オフィスと人のよい関係』浅田晴之、上西基弘、池田晃一 (著) 日経BP社 2007年10月

パフォーマンスマネジメントの新潮流(コラム2017/11/01)

パフォーマンスマネジメントの新潮流~課題克服でパフォーマンスは上がるのか?

右図のどこが気になりますか? 欠けている部分ではないでしょうか? 私たち日本人の多くは、「欠けている部分=足りない部分を補う努力が美徳」と 考えています。 そして、このことが、子育てや社員の育成に影響を与えています。

最近、様々な人から「○だけを欲しがる子ども」の話を聴きます。 家庭で子どもにドリルに取り組ませて採点をしている時、間違った答えに×をつけようとすると、横に座っている子どもが、「あっ、×は嫌!今、直すから」と言って ×をつけさせないというのです。類似の話しは、塾講師からも聴きます。×をつけられることを嫌がる子どもは、自分の回答に×がつく=自分自身に×がつくように感じているのかもしれません。

では、社会人はどうでしょう? 大人であっても、自分に足りない点を指摘されることが嬉しい人は、ほとんどいません。 嬉しくはないけれど、より成長した自分になるために感謝の気持ちで受け止める方が多いのだろうと思います。 しかし、近年、脳科学的見地から、課題を強調することの問題が指摘されています。 以下、脳科学の視点による「課題指摘の問題点」を紹介し、やる気向上、パフォーマンス向上に寄与する働く環境について考察します。

◆新しい脳と古い脳
右図をご覧ください。人間の脳には、「古い皮質」と「新しい皮質」があります。古い皮質(古い脳)は、潜在意識の座とも言われ、記憶力、理解力、創造力を生み出すやる気の源泉です。古い皮質は、本能の座とも呼ばれ、食欲、性欲、集団欲を支配しています。

また、新しい皮質(新しい脳)は、意識の座とも言われ、知能、情緒、意志を支配しています。善悪の判断や行動を制御する知性、理性の座です。動物の脳では、新しい皮質がほとんど発達していません。

問題は、新しい皮質と古い皮質が同時に活動することができない点です。例えば、思い出せない名前を無理に思い出そうとしても、中々浮かんでこないのはこのためです。潜在意識(古い脳)に記憶されている名前は、意識(新しい脳)が働きを休止すると思い出すことができます。

子どもと同様、我々大人も、欠点やできないことを頻繁に指摘されることにより、恐れ、怒り、不信、不安、警戒心のとりこになると、古い脳が縮み、活動しなくなって固くなるようです。そして、そのことにより、やる気を喪失し、記憶力、理解力、創造力が失われてしまいます。つまり、パフォーマンスが低下するということになります。
※新しい脳と古い脳 「強い子、伸びる子の育て方」 PHP文庫より抜粋・引用

◆脳科学によるパフォーマンスマネジメントの潮流
医学分野では、すでにエビデンス・ベースト・アプローチ(evidence_based_approach=実験や調査に基づく数値的アプローチ)が主流になっていますが、近年は、人材開発分野でも脳科学(ニューロサイエンス)によるエビデンス・ベースト・アプローチが注目を集めています。2017年5月にシカゴで開催された「Performance Management Innovation Conference」では、シスコ社、GAP社、イーライリリー社などのグローバル企業が、エビデンス・ベースト・アプローチによるパフォーマンスマネジメントを取り入れているという報告がされたようです。

◆パフォーマンス向上に寄与する働く環境とは?
新しい脳、古い脳の働きを基に、従業員のやる気を高め、創造性を発揮させ、パフォーマンスを高める環境について考察します。シカゴで開催されたカンフェランスで紹介された各企業の取り組みをまとめると、以下の要素が必要であるようです。

1.日常的かつ頻繁な対話とポジティブなフィードバックにより行動を変える
半期あるいは年に1度の考課とフィードバックではなく、日常的かつ頻繁にフィードバックを行うことにより、従業員のモチベーションが高まる。さらに、フィードバックは、相手の存在や価値を認める内容であることが重要。また、課題を指摘するとしても、相手の不安や恐れ、怒りを煽るような言い方は好ましくない。部下の課題ばかり指摘して可能性を認めない上司の元では、本質的なパフォーマンスを挙げる行動より、自分を評価する上司の顔色を伺い、失敗をしないように行動する習慣がついてしまう。

2.若手のやる気を刺激するには、成果による順位づけよりも、仲間から自らの存在を認められていることの確認と全員がフェアに扱われている(評価が透明である)ことを示すことが大切。

人間は、社会的存在です。周囲の人に存在を認められ、良い影響を与えてくれる人が居ることが、強みを発揮する原動力になります。古い脳の「集団欲」を満足させる働く環境を作ることで、従業員のやる気とパフォーマンスを向上し、生産性の高い働き方を実現できるのではないでしょうか?

働き方改革〜「オフィスも働き方改革(4)」(コラム2017/09/20)

“創造性を発揮するためのオフィス改革”

1.雑談できる環境をつくる
複数の研究では、同僚が互いに近くで仕事をしていることと、協力関係の増大の間に関連性があることが分かっています。ミシガン大学の研究者が、172人の研究専門の科学者を対象に調査を行ったところ、同じ建物を共有し、日常的に移動する動線――実験室やオフィス、一番近いトイレ、エレベーターといった場所へ移動する際の動線――が重なる場合は、より顕著に協力し合うことが分かりました。動線が重なる部分が100フィート増えるごとに、協力関係が20%上昇するというのです。

ミシガン大学の社会学者でこの研究の筆頭執筆者であるジェイソン・オーウェン=スミス氏は「より頻繁に同僚と会えば会うほど、最終的に会話を始める可能性が高まる」と述べ、「仮に相手が自分の知らないことを知っていれば、そのプロセスは情報交換に発展する」と話しています(ウオール・ストリート・ジャーナル2013年5月1日)。

つまり雑談がアイデアを創出する可能性を秘めているのです。グーグル本社のデザインは従業員同士の雑談を最大限に引き出すようになっています。同社では、従業員同士の雑談から「Gmail」や「ストリートビュー」といった新しいサービスが生まれました。

■アイルランド・ダブリンのオフィス(グーグル)
従業員がリラックスして仕事に打ち込めるスペースがたっぷりとある。

ロシア・モスクワの従業員は卓球やテーブル・サッカーを、木目調の快適な空間で楽しむことができる(グーグル)。

出典:https://www.businessinsider.jp/post-34932

■社員の声がどこでも聞こえるオフィス(btrax社〜アメリカ)
btrax社でも2013年の中旬に大々的にオフィスのリニューアルを行った。よりスタッフ同士のコラボレーションを生み出すのが目的。オフィス内のパーティションを取り払い、よりオープンでコミュニケーションの取りやすいオフィスへと改装した。そして壁にアイディアペイントという特殊なペンキを塗り、壁をホワイトボードとして利用可能にした。これまではプライバシー重視のレイアウトでとても静かな雰囲気のオフィスであったが、オープンスペースに変更された現在ではオフィスのどこにいても、社員の声が聞こえてくる。

(改装前)               →(改装後)

出典:http://blog.btrax.com/jp/2013/08/27/office-design-2/

2.リラックスできる環境をつくる

ストレスと創造性の関係は相反し、ストレス度が高くなると、「アイデアを考えても思い浮かばない」「新しいことをあまりやりたくなくなった」という人が増える、という結果が出ています(ストレスケア・コム)。



参照:https://www.stresscare.com/info/screativity_3.html

アイデアを求める時に、必死に考え続けることも必要ですが、むしろストレスを解放し、リラックスした状態をつくり出してみると、思わぬアイデアが突然浮かんでくる可能性があります。
フリスクの有名なCM〜Idea Place 編(2009年放映)は、「アイデアはどこで生まれるか」という研究データに基づいたものです。

参照:https://www.youtube.com/watch?v=kK8geObqyfg

トップ5はトイレ32%,風呂29%,ベッド22%,公園18%,バス17%です。アイデアは一人でリラックスしている時に生まれることに気づきます。
意外に会議室0%は驚くべき真実です。アイデアを創出する目的での会議はムダであり、働き方改革の方向性からも逆行します。少なくとも会議は「各人が考えてきたアイデアを擦り合わせる」時間にすべきです。
なぜならいくらそこで議論しても、新しいアイデアは生まれないからです。他方トイレや風呂、ベッドの空間を充実化することで、アイデアが生まれる環境を整えられるということです。これはプライベート環境だけでなく、オフィス環境においてもトイレやパウダールーム、リフレッシュスペースにも投資すべき根拠を示しています。

株式会社SYNTH(シンス)が2016年4月に発表した調査データ「ビジネスウーマンのオフィス環境に関する意識調査」によると、「快適なオフィス環境はモチベーションを向上させる」の同意率(「非常にそう思う」と「ややそう思う」の合計)は91.8%となりました。また、「快適なオフィス環境は作業効率を向上させる」の同意率は92.5%、「快適なオフィス環境は組織内の人間関係を良くする」 では82.2%となりました。快適なオフィスはモチベーションや作業効率だけでなく、組織内の風通しも良くすると感じられているようです。
それでは、女性がストレスを感じるオフィスとは、どのような環境のオフィスなのでしょうか。“こんな環境はストレスの素だ!”と感じるものを複数回答形式で聞いたところ、ワースト1位は「化粧室(お手洗)が狭い・汚い」(40.4%)、 2位は「空調の設定が極端(暑すぎる、寒すぎる、など)」(39.2%)、3位は「通勤しづらい(駅から遠いなど)」 (37.9%)となりました。化粧室と空調設定、立地の3点は、“女性にとっての快適なオフィス環境”を求めるうえで、 重要なポイントだと言えます。

女性にとって、トイレは用を足すだけの場所ではありません。昼休み後の身だしなみを整え、営業へ出る際の化粧直しにも使用します。場合によっては着替えが必要な時もあります。オフィスに更衣室がない場合は、トイレで着替えるしか方法がないのです。
女性は、トイレやキッチン、お風呂などの水周りの汚れに敏感です。汚いうえに狭いとなれば、トイレに行くたびにストレスとなってしまいます。 オフィススペースの問題もあるので、今すぐトイレを広くしてパウダールームを併設するわけにはいかないかもしれません。常に清潔を保ちやすく、レイアウトの工夫などで広さを感じられる、気持ち良く使えるトイレ空間が求められています。

〜オフィス改革事例〜
■女性ならではの細かな気遣いで、女子トイレは心休まる空間へ(アイキャンディ株式会社)

第一印象が大事!最初に目に入るトイレの入り口に棚を特注で新設。木の良い香りが、トイレに入る度ほんのり香る。女性ココロにトキメキをプラスし、おしゃれ雑貨をディスプレイし癒しの空間への雰囲気を盛り上げる。
帰りの導線上には、全身鏡を設置し、トイレ後の服の乱れなど女性はチェックできる。

鏡に映った自分の顔の周りに花や緑があることで、華やかな気分になり、顔色もよく見える。また女性は荷物が多く大きめのカバンを持つ人が多いので、荷物置きを新設。肩や腕にかけたまま手を洗うのはすごく洗いづらいため、手洗い場にも必須。

出典:http://eye-candy.co.jp/p-candy2/candy_magic/2605/

■ピンクを基調とした清潔なパウダールーム(伸栄商事株式会社)

出典:https://www.shigotoba.net/meet/office/details/5336.html

■ 「5 TSUBO CAFE」の提案(プラス株式会社)

・ カフェ設置スペースを作るための「オフィスダイエット™」を提案
「カフェ用のスペースなんて無い」「オフィスが狭くて無理」――「5 TSUBO CAFE」は、そうした企業のために、まず設置スペースを作るためのサポートである。
*オフィスダイエットとはオフィスフロア内の不要な書類や無駄なスペースを削減することを指す。

出典:http://www.plus.co.jp/news/150709.html

■食堂も兼ねたコミュニケーションスペース

出典:http://www.jsbc.or.jp/swo/files/swo_hb03-2.pdf

■リフレッシュルーム(株式会社サイバード)

「Park Cybird」というリフレッシュスペースがある。畳やこたつもあってゆっくりでき、週に2回ほどカレーやお弁当の販売なども行われ、休憩スペースとして活用されている。リフレッシュルームでリラックスしながらだと柔軟に発想できる。

出典:https://liginc.co.jp/186856

■Studio O+A(アメリカ)

リラックススペースは絶好の集いの場である。人が集まり、会話をすることで情報が集まる。さらには新しいアイデアが生まれてゆく。リフレッシュスペースただの休憩場所ではなく、アイデアを生み出す貴重なスペースとなっている。また、日本ではサボリと見られがちなお昼寝は、アメリカではPower-nap( nap=昼寝)として知られ、その効果が実証されている。15分程度の短いお昼寝をすることで、頭がリフレッシュし仕事の生産性を上げることができる。

出典:http://blog.btrax.com/jp/2013/08/27/office-design-2/

生産性向上、働きがい向上の鍵(コラム2017/08/01)

生産性向上、働きがい向上の鍵は、組織への愛着心!

2012年の調査で、グローバルコンサルティングファームのタワーズワトソン(NYSE,NASDAQ: TW)は、『持続可能なエンゲージメント(会社への自発的貢献意欲の持続性)が会社の業績に影響する』ことを明らかにしました。

出典: Towers Watson’s Global Normative Database

エンゲージメント(engagement)の文字通りの意味は、「約束」や「婚約」ですが、経営用語としては、「個人と組織が共に成長する関係」を表現する言葉として使われています。
また、昨今では、ユーザーとブランドとの結びつきや、商品を購入する前後の関係性を重視する姿勢を背景に、マーケティング分野で注目を集めています。

従業員のエンゲージメント」は、【会社の存在価値や事業の方向性に対する共感】を物差しとして従業員の現状を把握する概念で、会社の成長に対する従業員の自発的な貢献意欲の度合いを示しており、具体的には、以下の3点で構成されます。

1.会社の方向性に対する理解(組織の目指す方向性を理解しそれが正しいと信じている)
2.帰属意識(組織に対して帰属意識や誇り・愛着の気持ちを持っている)
3.行動意欲(組織の成功のため、求められる以上のことを進んでやろうとする意欲がある)

タワーズワトソンの調査では、従業員エンゲージメントを “継続的に高く維持する” ための要件を検証し、エンゲージメントに影響を与える要素を明らかにしました。
その結果、日本においては、トップ5に以下の項目が挙げられました。

1.ストレス、作業負荷のバランス 
2.企業の社会的認知や使命
3.直属上司との関係
4.会社目的や目標に対する共感
5.福利厚生

(以上、『グローバル・ワークフォース・スタディー』より抜粋引用)

かつては会社に対するロイヤルティ(忠誠心)が高いと言われた日本人ですが、行き過ぎたロイヤルティは社員の自立や多様性、革新を疎外します。
イノベーションや自発的な改善が求められる現在は、ロイヤルティではなく、「エンゲージメント」が重視されるようになりました。エンゲージメントは、メンタルヘルス対策に積極的に取り組むための組織運営に最も求められるキーワードでもあります。

様々なエンゲージメント調査によれば、会社や会社のメンバーに強い絆を感じ、共感、愛着、帰属意識を持って情熱的に仕事に打ち込んでいるエンゲージメントの高い従業員は、そうでない従業員に比べて、生産性が20%、努力の度合いが57%、定着率においては87%も高まることが分かっています。従業員エンゲージメントの高い企業の営業利益率は、そうでない企業と比べて約3倍高かったことも分かっています。

エンゲージメントの高い従業員は、会社の目指す方向を理解し、会社のメンバーと一緒に働くことを誇りに思い、会社の成長・発展に貢献したいという強い気持ちを有して自発的に考え、行動します。さらに、定着率が高く、会社を良くする(業績、風土改革)ことに意欲です。

正社員だけでなく、多様な働き方の社員のエンゲージメントを高めるためには、以下がポイントになるのではないでしょうか。

1.働きやすさ
適材適所、業務に集中できる、ライフステージに合わせた働き方を選択できる
2.処遇納得度(評価や報酬の透明性と納得度)
3.コミュニケーション(他部署、上司含めて社内の風通しが良いか)
4.参加・参画度(自己重要感、承認欲求が満たされる仕組み)
5.やりがい・自己成長(ステップアップの仕組みと支援、褒賞)

働き方改革〜「オフィスも働き方改革(3)」(コラム2017/08/21)

オフィスも働き方改革(3)

今回は前回に続いて、オフィスの生産性向上の変数としての「集中できる環境」に焦点を当てます。

1.ウェルビーングと作業環境
企業戦略の一貫として位置づけされたウェルビーングは特にそれを増大させるために意図的にデザインされたオフィス環境では明らかに効果を生みます。ウェルビーングとは、「現代的ソーシャルサービスの達成目標として、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」をいいます(中谷茂一 聖学院大学助教授 / 2007年)。

調査結果がこれを証明しています。オハイオ州立大学では、ホワイトカラーのワーカーを2つのグループに分け、2つの全く異なる環境のもとでの人々のストレスレベルを検証しました。まずは低い天井と空調エアコンの音がうるさく古いオフィス、もうひとつは天窓があるオープンレイアウトを採用した、新しく改装されたオフィスです。17ヶ月経った後での調査では古いオフィスに配置された人々の方が働いていなくてもストレスを多く感じていたということです。そして、将来的な心臓疾患につながる可能性を引き出すのに十分な違いをもたらしたことが明らかになりました。
参照:https://www.steelcase.com/asia-ja/research/articles/topics/wellbeing/boosting-workplace-wellbeing/

岡村製作所(2013年)の調査によると、座りたい席に座れた場合では、そうでない場合よりも仕事へのモチベーションが3倍にもなり、そして創造性や効率なども3割向上するのです。
Q.オフィスの中で働く場所を選ぶことは仕事に影響を与えますか?

また「作業環境を変えたい」と考えているワーカーが全体で93%(内向型は92%、外向型は89%)もいます。ワーカーにとって、作業環境は重要なウエートを占めています。
Q.ひとりで作業をしているとき、仕事の内容によって作業環境を変えたいことがありますか?

Q.オフィスにおいてあなたの集中を阻害する要因は?
オフィスにおいて集中を阻害する要因におけるワースト3は、「騒がしい」(84%)、「後ろから見られている」(84%)、「オープンや開かれた環境」(74%)です。これらの阻害要因を解消するには、一日のうちで異なる作業をサポートする多種多様なセッティングを提供することです。オープンとクローズ、「個人」と「交流」の両方のスペースなど、ワーカーが仕事に必要なワークプレイスを選択できれば、ストレスを軽減し、モチベーションを向上させる効果をもたらします。

参照:http://workmill.jp/webzine/20160209_report1.html

2.「集中できる環境」をつくるには
(1)間仕切りの空間
印刷機器販売のデュプロ(東京都豊島区)には「DEN(デン)」と呼ばれるスペースがあります。並んだ机には前と左右の三方に間仕切りが付けられ、1区画ごとがほぼ独立した空間。電話や打ち合わせなどの声が活発に飛び交う社内でこの場所だけは静けさが漂う。デンとは洞穴、書斎、隠れ家といった意味です。2007年にオフィスを移転した際、固有の席を設けず自由に選べる「フリーアドレス制」を導入。普段は会わない営業職と技術職が隣り合って座った結果、新しいアイデアが生まれるなどコミュニケーション活性化の狙いは奏功しましたが、「活気があり会話が多い場所というのは集中作業に向かない」と同社のオフィス改革担当者は説明します。
営業部の男性社員は「顧客への提案書や見積書の作成など、集中して作業したいときにデンを利用する」と言います。半年前までは雑然とした営業所が拠点だったという別の男性社員は「ここには個人の空間がある」と満足そうに話します。

参照:
https://style.nikkei.com/article/DGXBZO19124980Q0A131C1WZ8000?channel=DF130120166128&style=1

(2)可動式の間仕切り
■限られたオフィス空間の中で、集中とコミュニケーションを同時に成立させるためには?
社内は見通し良くありたい。コミュニケーションを重視するのであれば、社内は仕切りのない1フロアにして、社内で起きていることをフロアにいる社員全員が感じられるようにすることが理想です。
他方、社内に設計部門と営業部門など、ワークスタイルの異なる部門がある場合、一方は集中のための静かさが必要となると、集中できる空間づくりも必要になってきます。
限られたオフィス空間の中で、集中とコミュニケーションを同時に成立させるために、どのように間仕切りをしていくかは大きな課題で、社内のオフィスづくり担当者の悩みでもあります。
その課題を、独自の空間デザインで解決したのが株式会社ミダス(築地)。株式会社ミダスは、創業以来5,000件を超えるプロジェクトを成功させてきた老舗の空間デザイン会社です。

■集中とコミュニケーションを同時に成立させる秘密は、社内を横断する可動式の間仕切りにあり

この写真は、可動式間仕切りを中心にして、向かって左側が打ち合わせの会話が多いプロジェクトマネジメント部門、右側が集中を必要とする設計部門、それぞれが同時に収まるように撮影したものです。社内を貫く間仕切りでオフィス空間を大きく2つに分割していることがわかります。

間仕切りは天井のレールに吊り下げることで、軽い力で動かせるように設計されており、女性でも簡単に開け閉めすることができます。集中が必要なエリアは閉めて、そうでないときは開けてと、間仕切りで完全に締め切ることはなく、その時々で開閉して間仕切りを活用していることが多いとのことです。

■単なる間仕切りではない、4層ホワイトボードによる情報ストック、アイデア醸成機能

この間仕切りはホワイトボードになっているので、進行中のプロジェクトのアイデアや案件内容など、チームミーティングのホワイトボードとしても頻繁に利用されています。

間仕切りのホワイトボードは4列のレール上に4層重なっていますが、空間を仕切るためであれば2層でも充分なはずです。その理由は、「情報をストックして、アイデアを醸成するため」とのことです。

ホワイトボードが1枚しかないと、打ち合わせが終わったら消す必要が出てくる。会議でホワイトボードに書いたブレストのメモを次回まで取っておけたら続きが書ける。この4層構造のホワイトボードなら、消さずに残しておける。書いたパネルは残すために移動させて、次の打ち合わせには隣のレールのホワイトボードを持ってくれば済む。書きかけのアイデアは、当初参加していないメンバーも残されたメモを見て、後日アイデア出しに参加できる。空間デザイン会社らしい素晴らしいアイデアです。

■いつものデスクが集中コーナーに変身!デスク上フェルトパーテーションをオーダーメイド

写真のデスク風景は設計部門のデスクをスローシャッターで撮影したもの。設計部門のデスクは、フリーアドレスタイプのデスクを使っています。
(注) 社員の座席は、現在、期間限定にて固定使用を実験中。

写真中央の女性に注目すると、デスク左右をグレーカラーのフェルトパーテーションに囲まれています。このグレーのパーテーションパネルは、机に差し込むだけで取り付けできるフェルト製のオーダーメイドで、吸音と視線をさえぎる機能を持っています。集中して作業したい社員は、自分の両脇にフェルトパーテーションを取り付けることで、そこが集中スペースに変身するのです。

設計部門の仕事上、集中して仕事をすることが多いのですが、チームメンバーとのコミュニケーションは仕事には欠かせません。集中とコミュニケーションのバランスを取るアイデアが、この取り外し可能なフェルトパーテーションなのです。

■フォーラムエリアをセミナー開催から少人数打ち合わせまで使い分けられる秘密は、ロールスクリーン間仕切りにあり

左の写真は、セミナー開催できるフォーラムエリア。普段は少人数の打ち合わせにも使えるよう、ここでもミダスらしい、空間を仕切りつつ、つなげることができる秘密が隠されています。

2枚目の写真はロールスクリーンの間仕切りを下ろして、フォーラムエリアを4分割したものです。天井に複数のロールスクリーンが仕込まれていて、引き出すことで間仕切りとして利用できます。区切るエリアの大きさは、天井に25センチごとに設置されたロールスクリーンのどれを引き出すかを変えることで変更可能になっています。

この仕組みにはもうひとつポイントがあります。仕切った向こう側の人影がわかる程度に少し透けています。スクリーンで仕切った向こう側が少し見えると心理的に安心できるため、完全に遮光せず半透過のものにしています。空間づくりのプロらしい配慮です。

ロールスクリーンで仕切った向こう側を見えなくすることも可能です。隣接するロールスクリーンをもう1枚下ろして2枚にするとかなり向こう側が見えなくなります。また、完全に見えなくほうが良いような、たとえば守秘が必要な会議には、別室の会議室が用意されており、打ち合わせの内容ごとに使い分けがされています。

このように株式会社ミダスのオフィスは、限られた空間を多機能に使うアイデアが随所に施されていて、大いに参考になるものです。

参照:
https://www.shigotoba.net/midas1610_1_shuuchuushitutucomm.html

人生100年時代の働き方(コラム2017/08/01)

人生100年時代の働き方

経済産業省次官・若手官僚プロジェクトによる「不安な個人、立ちすくむ国家〜モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか〜」というレポートが注目を集めています。
※ご興味のある方はこちらからどうぞ。http://www.meti.go.jp/committee/summary/eic0009/pdf/020_02_00.pdf1か月で100万ダウンロードされ、意見交換のためのワークショップには100名を超える人が集まりました。このレポートが、異例とも言える注目を集めた理由はなんでしょうか?

若手官僚が日本の危機と展望について率直に意見を開示していることが大きいようです。
また、意見効果ワークショップには、100人超の定員に約300人の応募があったと言います。
それだけ、日本の危機を我が事として捉え、何らかの形で参画したいと考える人が存在するのでしょう。
参加者は、30~40代のNPO職員、教員、市議会議員、行政職員、学生、企業関係者が多かったようですが、50代、60代の参加が少ないことは残念に思います。

本レポートの主題は、「超少子高齢化時代を迎えた日本の危機や、働き方、生き方、家族のあり方の変化や技術の進歩に伴い、抜本的な改革の必要性を訴える」というもので、要点は以下のとおりです。

• 一律に年齢で「高齢者=弱者」とみなす社会保障をやめ、働ける限り貢献する社会へ
• 子どもや教育への投資を財政における最優先課題に
• 「公」の課題を全て官が担うのではなく、意欲と能力ある個人が担い手に
(公共事業・サイバー空間対策など)
◆昭和の人生すごろく
本レポート中に、「昭和の人生すごろく」という表現が出てきます。

出所:経済産業省「不安な個人、立ちすくむ国家」レポート(2017年5月)より

レポートは、「『サラリーマンと専業主婦で定年後は年金暮らし』という 『昭和の人生すごろく』のコンプリート(完結)率は、既に大幅に下がっている」と述べています。
1947年には女性:54.0歳、男性:50.1歳であった日本人の平均寿命は、2013年には女性:86.6歳、男性:80.2歳まで延びており、それに伴い健康寿命も延伸しています。
(健康寿命 女性:74.1歳、男性:71.2歳)
「Life Shift 100年時代の人生戦略」(2016年、東洋経済新報社刊)には、2007年生まれの日本の子どもの半数は107歳まで生きるというデータが掲載されています。
定年退職後は年金を当てにして悠々自適、という時代は終わりを迎えています。
人生100年時代においては、65歳に定年を迎えた後、35年間の人生が待っています。
昭和の人生すごろくは、もはや過去の遺物でしかありません。

◆人生100年時代働き方
年金問題、少子化問題を考慮すると、今後は、定年延長の流れが加速するものと思われます。
ただし、健康で働く意欲があり、存在価値を発揮できる仕事ができることが条件となります。
ぶら下がり的な意識では、働き続けたくても働く場がなくなるでしょう。
今後は、AIやロボットが多くの定型業務を代替すると言われており、マッキンゼーの試算では、自動化が可能な業務の割合は、日本で55%とのことです。
働き手としての意欲を持ち続け、AIやロボットに代替されるのではなく、活用する側に回りたいものです。

そのためには、社会や会社の動きに敏感になり、周囲に対してどのような貢献ができるのかを考えて仕事をすること、そして、新しい動きに関心(好奇心)を持ち、自己啓発を続ける努力が大切です。

脳の機能は加齢とともに衰える一方ではありません。
新しいことを学び、吸収する能力は40歳台でピークを迎え、その後は衰えますが、それでも、80歳で8割を維持する(個人差大)と言われています。
また、結晶性知能と言われる<経験を通して獲得した知見>は、生涯発達の可能性を持つそうです。
ただし、発達の可能性は、共同体でのコミュニケーション能力に依存します。
つまり、多様な考え方の人たちとの協働により、脳は生涯発達する可能性が高まるのです。
人生100年時代は、不透明で課題が山積する時代ではありますが、社会の動きにアンテナを立て、自身の可能性に挑戦し続ける人にとっては刺激的な時代と言えるのでしょう。