マンスリーレポート2016年3月号

3月マンスリーレポート PDFダウンロードはこちら

モチベーション・マネジメント【3】

モチベーション理論と新人育成

本レポート1月号でエドワード・L・デシの内発的動機付け理論に触れましたが、本号では、この理論を新人育成の観点から掘り下げます。

モチベーションを刺激する方法は、大きく分けて2種類あります。「外発的動機付け」と「内発的動機付け」です。
外発的動機付けは、外部から刺激を受けてやる気につながるもので、金銭的報酬や昇格などの経済的刺激と、認められる、褒められるなどの精神的刺激の2種類があります。
一方、内発的動機付けは、自身の内面から湧き出るやる気のことで、自己決定(主体性)や挑戦意欲、創造性に影響を与えます。(図1参照)

最近の研究では、外発的動機付けと内発的動機付けは対立するものではなく、外発的動機付けから内発的動機付けが導かれる場合があることが証明されています。
(図2参照:「有機的統合理論/櫻井茂男」を元に編集)

新入社員の動機付け

多くの新入社員は、入社後半年ほど経過すると、能力が低いと感じたり、周囲の人からの疎外感を持ったりして元気をなくします。

「自身の能力に不安を持つ=有能性の欲求が満たされていない」ということです。自己決定できる仕事は少ないでしょうし、自分の仕事にどのような意味や価値があるのかが見えづらい状態にいます。
動機の観点から言えば、有能性の欲求、自律性の欲求が満たされていません。さらに、周囲からの関わりが少なく、放置されている感覚を持つ場合は、関係性の欲求も低下しています。
このような場合には、以下の3点を心がけていただくと、彼らの意欲低下を軽減することができます。

意欲低下を防ぐ処方箋

  1. 業務の全体像を説明し、どの部分に自身が関わっているか、仕事の価値を認識できるようにする
  2. ある程度自己決定ができて成果の出やすい業務を与え、達成したら努力を認める
  3. 周囲の人たちが意識的に声をかける(存在を認める)

書籍「仕事ができて、なぜか愛される女の8つの習慣」藤井美保代

多くの働く女性は、仕事の中でサポート的な役割を果たしていることが多く、自分主導で仕事を進められないなどのジレンマを抱えています。周囲との連携、人間関係を大切にし、「好感度」と「効率」を両立させている人の習慣とちょっとしたコツを紹介します。
出版社:SBクリエィティブ 価格:1,300円(税別)

書籍『「ミスゼロ仕事」の片づけ・整理術』藤井美保代

ミスが起こる原因の一つは、片づけられていないことにあります。
乱雑なデスク、データで埋め尽くされたPCなど、整理できていないモノ・コトは、ミスの温床です。
ミスを防ぎ、仕事の効率アップに必要な片づけ・整理のコツを紹介します。
出版社:日本能率協会マネジメントセンター  価格:1,300円(税別)

ご購入者への特典

以下のダウンロードURLより、ツールフォーマット圧縮データ(zipファイル)をダウンロードしてください。圧縮データを解凍する際に、ご購入いただいた書籍に掲載されているパスワードをご入力ください。

■ミスゼロ仕事の片付け・整理術ツール
https://j-bps.com/wp/miss-zero_form.zip

書籍「叱りゼロプロジェクト」(山田容子・藤井美保代・森田圭美・井上羊美)

「叱らない」で部下を育てる技術
部下に嫌われたくない、部下に辞められては困る、パワハラと言われるのが怖い、どんなに言っても聞かない、という方に向けて、部下を怒鳴る、脅す、追詰めるなどの叱責をすることなくできる、部下育成の方法をお伝えしています。
出版社:日本能率協会マネジメントセンター  価格:1,400円(税別)

マンスリーレポート2016年2月号

2月マンスリーレポート PDFダウンロードはこちら

モチベーション・マネジメント【2】

モチベーション理論と人事制度

モチベーション理論と人事制度には深い関連があります。
人事・給与制度の目的は、従業員の満足要因を高め、不満足要因を解消し、効果的な能力開発環境を整備することを通して定着と育成を図り、組織目的と目標達成のために高い生産性を確保することです。
そのため、多くの経営管理制度や人事制度が、モチベーション理論を基に考案・運用されています。

例えば、成果報酬制度を例に考えてみましょう。
成果報酬制度は、組織目的や目標達成のために、より多くの成果を挙げた社員に高い報酬を払うことで努力の結果に報いる制度です。これを動機づけの観点で見ると【外発的動機づけの制度】と言えます。
外発的動機づけとは、<ある条件を満たせば金銭的、社会的(昇進)、精神的報酬(賞賛、名誉)を得られる>ことを提示することで、行動を起こすモチベーションを上げることです。
子どもに対して「勉強を1時間したら好きなゲームを買ってあげるよ」と言うのと同じです。

また、フレックスタイム制度は、内発動機を高めるための制度です。
内発動機の要素である【自己決定欲求】は、自分の行動を自己決定できることで高まります。
フレックスタイム制度は、働く時間を自己裁量できる権利を与えることで、社員の内発動機を高めることが狙いです。フレックスタイム制度や福利厚生制度は、「2要因理論」(ハーズバーグ)がベースになっています。2要因理論は、従業員の満足感を高める要因(動機づけ要因)と、充足されないと不満足を招く要因(衛生要因)を明らかにしました。(図参照)
福利厚生制度は、【不満足要因を解消する要因】を制度化したものと言えます。

モチベーション理論を基に多くの制度が考案・運用されていますが、どの制度も万能ではありません。
すべての従業員が適切な目標を持ち、達成に向けての意欲やエネルギーを持続する状態を作り出すことに成功した制度や企業は存在しません。モチベーションには多様性があり、各人が置かれた環境によって方向性と強弱が変化するものだからでしょう。
しかし、いつの時代も、多様なモチベーションをマネジメントすることは、経営だけでなく、教育、マーケティング、地域づくりの大きなテーマであるため、この30年だけでも3000以上の理論的・実践的研究がなされており、今なお、人間の行動を科学する取り組みが行われています。

マンスリーレポート2016年1月号

1月マンスリーレポート PDFダウンロードはこちら

モチベーション・マネジメント【1】

モチベーション研究

モチベーションの語源は、動きを意味するラテン語(movere)で、日本語では「動機付け」と訳されます。
モチベーション研究は、18世紀に起きた産業革命において、大量生産を円滑にする経営管理法の研究と並行して進められました。当時は、多くの労働者が、いかに効率よく働き、多くの成果を生み出すかが研究のテーマで、1900年代に多くの理論が提唱されました。代表的な研究に、「フレデリック・ハーズバーグ(1923年-2000年)の動機付け・衛生理論」「アブラハム・ハロルド・マズロー(1908年- 1970年)の欲求5段階説」「エドワード・L・デシ(1942年-)の内発的動機付け理論」があります。マズローの5段階欲求説は、人間の精神的成長や目標達成意欲、購買意欲に影響を与えるため、人財育成やプロジェクトマネジメントの進め方、商品開発などにも活用されています。
右の図は、5段階欲求説を女性社員育成施策に展開した事例です。
モチベーショ・マネジメントは、現在では、経営の質、行動の質を向上するために必須の能力と認識され、経営学、心理学分野ではもちろんのこと、教育学、スポーツ、生理学などの多くの分野で研究が進められています。

mr201601a

エドワード・L・デシの内発的動機付け理論

私たちの動機には2種類があります。「外発的動機付け」と「内発的動機付け」です。
デシは、多くのモチベーション研究者が提唱していた外発的動機付け(成果報酬や出来高払いなどの「科学的管理法」)は人間の自律的・創造的な行動を疎外するとして、本人の内面から湧き出る内発動機を高めることが重要であると提唱しました。実際、ハーバード・ビジネススクールのテレサ・アマビールら研究者は、専門スキルや創造性に内発的動機付けが大きく影響していることを発見しています。

内発的動機付けには、人間の持つ3つの欲求が関係しています。

  1. 有能性(competence)の欲求:やればできる!という自信。有能感があるから挑戦することができる
  2. 自律性(self-determination)の欲求:自分の意志で選択する自己決定欲求
  3. 関係性(relatedness)の欲求:誰かと結びついていたい、受け容れて欲しいという欲求
  • 単独で満たしても意欲は高まらず、他の2つの欲求が高い段階では、意欲に強い影響を与えない。

自他の内発動機を高めるためには、主に、有能性と自律性をマネジメントすることが大切です。
例えば、大きな課題に挑戦することをリスクと感じる場合は、課題を小さく分解し、「できそうだ!」と思えることを任せて、「できる!」という感覚を積み重ねることで、有能性や自律性が高まります。

マンスリーレポート2015年12月号

12月マンスリーレポート PDFダウンロードはこちら

多様性を活かすチーム・組織づくり【3】

自律型組織を機能させるには?

◆ミドルマネジメントの役割

右図で見るように、ミドルマネジメント(中間管理職)の中心的な役割は、トップ(経営層)のビジョンをボトム(一般社員など)に浸透させ、ボトムやミドルの意見・提案をトップに具申するブリッジ(=橋渡し)機能です。
問題解決の視点としては、トップ層は、「今後の事業のあり方など未来形の問題解決に注力する」ことに対し、ミドル層は、「現状の問題解決に注力する現在形」であることが特徴と言えます。
マネジメントの目的は、「財務、人財、組織ビジョン」などの組織目標を達成することです。
マネジメントには、ヒト・モノ・金・情報・時間のリソースを有効に使い、これらを組織目標の達成に寄与することが求められますが、マネジメントに求められる能力は、時代により変化しています。
経済の成長期には、上意下達が徹底され、現場が定型的に動いていれば業績は順調に推移したため、上意下達の徹底と調整能力が求められましたが、成熟・停滞期に入った現在では、「従来どおりの定型的なビジネス」を続けることは衰退につながり、工夫と変革が求められています。さらに、消費者の価値観だけでなく働く人の仕事や組織に対する価値観も多様化し、マネジメントには、一人ひとりの部下の考え方や価値観に配慮し、各自の働きがいを高めながら目標を達成する能力が必要になりました。
つまり、ミドルマネジメントには、「人の多様性に対応する育成能力と創造的問題解決力」が要求されています。

mr201512b

◆上意下達型組織から自律型組織へ

経済が成熟・停滞する多様化の時代には、顧客接点で働く現場人財の意見や発想を活かす【自律型組織】が有効です。
なぜなら、上意下達と報告・連絡・相談だけの一方通行では、現場の情報をトップが吸い上げるために時間と情報バイアスがかかり、的確でスピーディな判断ができないばかりでなく、現場の多様な気づきや発想が経営に反映されにくいからです。
多様性の時代に対応できる組織とは、現場やミドル層における情報・意見の共有がなされ、さらに、階層を超えた対話の場が機能している組織、つまり、自社のナレッジ(知見)を活性化する仕組みと風土を備えた【自律型組織】なのです。

マンスリーレポート2015年11月号

11月マンスリーレポート PDFダウンロードはこちら

多様性を活かすチーム・組織づくり【2】

~多様性の時代における“マネジメント”~

◆中間管理職の悩み

グローバル化、多様化が進むホワイトカラー職場のマネジメントに危機感を抱く企業が増えています。
マネジメントに「やりがい」や「面白み」を感じる管理職が減っていることが主な要因です。

「仕事の半分以上がプレーヤーの仕事」という課長が5割近く存在しており、彼らの多くは、①プレーヤーとしての責務、②部門目標達成、③人財育成とチーム活性化、という3つの役割を担っており、多重責務の負担が重くのしかかっています。

この背景には、「ビジネスのスピードアップ」、「人財の多様化」、「内部統制対応による書類仕事の増加」があります。
中間管理職は幹部候補生です。彼らの働きぶりが一般社員のロールモデルとなって欲しいところですが、現状では管理職の大変さ が目立ち、管理職になることに魅力を感じない社員を増やす結果が出ています。

◆多様性に対応するマネジメント

どのようにすれば、この課題を解決できるのでしょう。
ここでは、管理職の不満のうち「上司や部下が思うように動いてくれない」に着目します。
課長の重要業務は「部下の育成・指導」と「部門目標の達成」ですが、この2つは大きく関連しています。
部下が順調に育てば、目標達成力が向上し、業務の権限委譲が進み、管理職の負担が軽減します。

ポイントは、2つあると考えます。
1つめは「上司・部下との対話による相互理解・ビジョン共有の促進」、
2つめは「育成の仕組み化と 環境づくり」です。

まず、上司との対話では、部門の課題や課長に求められること、マネジメントとしての課題について優先順位を付けて共有します。
同様に、部下とも、各人への期待や課題、部門のビジョンをしっかり話し合います。

また、多様なキャリア観を持つ人財の育成を1人で担おうとするのではなく、育成方針や個々人の育成課題を部門全員で共有し、 分担して育成を進める「仕組みと環境」を構築する必要があります。
多様性に対応するマネジメントでは、周囲を巻き込むリーダーシップが問われます。

管理職に関する調査

◆管理職対象「満足度調査」

<あなたは、管理職としての仕事に満足していますか?>

【不満の内訳】

・給料(報酬)が職責に見合わない 39.8%
・管理職の仕事にやりがいを感じない 33.7%
・上司や部下が思うように動いてくれない 33.3%
・書類の処理に追われている 30.2%
・管理職としての仕事が評価に反映されていない 24.4%
・部下や上司との調整などが面倒 24.0%

◆一般社員対象「管理職になりたいか?」

・なりたい 43.9%
・なりたくない 54.1%

【理由】

・負担が増える割には給料(報酬)が上がらない 57.5%
・管理職の仕事にやりがいを感じない 51.9%
・部下や上司との調整などが面倒そう 44.2%
・部下の教育などの負担が大きい 25.9%
(出典:2008 年 11 月 11 日付 日経ビジネスオンライン)

マンスリーレポート2015年10月号

10月マンスリーレポート PDFダウンロードはこちら

多様性を活かすチーム・組織づくり【1】

~多様性に対応する組織コミュニケーション~

◆多様化の背景にあるものは?

現在は多くの企業で、「多様性を活かすマネジメント」が課題になっています。
ここでは、多様性を活かすマネジメントを考える前に、組織内の多様化が進んだ背景を、改めて考えてみたいと思います。

1960 年代の高度成長期の特徴は3つあると言われています。
「キャッチアップ型モデル」「人口増加」「高度成長」です。
当時は、欧米企業モデルにキャッチアップすることが目標であり、一生懸命がんばって働けば、業績や報酬が右肩上がりに伸びる時代でした。
このような時代においては斬新なビジネスモデルや製品は不要でした。
決められたことをきちんとこなす人財が必要とされ、日本人の価値観も同質的でした。
ところが、キャッチアップ型モデルが行き詰まった現在では、「イノベーション」が求められています。
生き方、働き方、消費マ インドなどの価値観も多様化しました。
企業の現場では、契約形態の異なる人財が一緒に働き、新しいモノやサービスを生み出すことを求められています。
一方で、終身雇用や年功序列を約束することはできませんので、企業への貢献意欲、所属意識は低くなっています。
企業が成長を続けるために、多様な価値観を持った雇用形態の異なる人財のベクトルを合わせるための、新しいマネジメント方法が模索されているのです。

◆多様性に対応する組織コミュニケーションとは?

右図の「コミュニケーション氷山モデル」のように、私たちの言動の基には、価値観や経験などから形成された「その人らしいパターン」があります。
そのパターンに注目して言動の真意を理解しようとすることで、多様な考え方を活かすことができます。
つまり、「私の常識=相手の常識」ではないことが前提です。
多様性を活かすためには、「何のための話し合いかを共有する(目的志向)」、「結論を急がず、なぜそのように考えたのか、そのプロセスに注目する」、「『Yes,but・・・』と批判的に捉えずに、『Yes,and・・・』とアイディアを広げる」、などのコミュニケーション習慣が大切です。

◆コミュニケーションの氷山モデル

氷山は、海上に見えている部分の下に大きな塊があります。
同様に、コミュニケーションにおいては、外部から見えるもの(「言動」や「成果・結果」)の下に、見えないものが隠れており、それが言動に影響を与えています。
多様性を活かすコミュニケーションでは、表面的な言動ではなく、その下に隠れている見えない部分に興味を持ち、言動の背景を理解する姿勢が問われます。

◆多様性を味方につけるコミュニケーション習慣