2017年12月15日
コラム「データ分析に潜む罠」(2017年12月15日)
データ分析に潜む罠
企業経営を継続させるには一定の収益が必要だ。どれだけコストを抑えようが収益がなければ経営は成り立たない。また収益の柱があったとしても、世の中の変化に追いついていかず倒産する企業さえある。そのため企業は収益の確保には血眼になる。売上げが落ちてくると、「なぜそうなったのか」とデータ分析に力を入れてくる。従来の理論に基づいて、売上げ減少要因をひっくり返せば、売上げを回復することができるものと信じ込む。そうやって、データ分析と会議が頻繁に発生してくる。
例えば流通サービス業がそうであるように、ABC分析(1)や顧客分析に力を入れる。前者では、単品別に売れ筋商品や死に筋商品を把握して、売れ筋商品は売場や在庫数を増やし、死に筋商品はカットしたり、在庫数を減らしたりする手法を行う。後者では、顧客の属性分析、購買頻度、購買金額、上位顧客の支持率の高い商品の抽出などを行う。
それで売上げが維持できるのであれば、流通サービス業の経営は安泰になる。例えば日本チェーンストア協会におけるスーパーマーケットの販売額は2006年が14,021,663(百万円),2016年12,971,782(百万円)であり、10年間で7.5%の減少である。総人口は127,901千人から126,933千人へと▲0.8%の減少であることから、決して人口減少が売上減の要因でないことがわかる。実際は、売上げ減少額1,049,881(百万円)の約7割(▲705,543百万)を占める衣料品が大きく落ち込んでいることが主要因である。衣料品はユニクロやしまむらなどに顧客が奪われていることだ。ユニクロはSPA(製造小売業)であり、しまむらは各アパレルメーカーから仕入れて小売する業態である。構造的にユニクロに勝てないのはわかるが、従来型の取引で運営するしまむらにも太刀打ちできないでいる。どのチェーンストアもデータ分析は行ったが売上げ回復に至っていない状況である。
日経MJ(2017年11月3日号)によると、
「100円ショップ大手のセリアが客の性別をやめた。売れ筋だけで棚を埋めて売り上げを伸ばしたいセリアにとって、特定の客にしか刺さらない商品は死に筋ともいえる。今の消費者の好みに年齢は関係ない。そんな消費者に受けるヒット商品をつくるには、顔の見えないデータではなく、SNS(交流サイト)や街中の消費者の生の姿をみていくことが重要という。
既存店売上高が17年4~9月期も毎月プラスと好調ななか、客層分析を捨てた理由について、セリアの河合映治社長は『雑音を取り除くためだ』と話す。誰が何を買ったのかというデータがなぜ雑音なのか。『重要なのは全体の売れ行きであって、(売り上げはさえなかったが)特定の客層には深く刺さったという言い訳になるようなデータが存在すると、優先順位を間違う』と強調する。
小売り各社が客層データを収集・分析する狙いは、ターゲットとする年代の購買が多い商品の事例をもとに次のヒット商品の開発につなげたり、来客頻度の高い常連の好む商品を店舗ごとに品ぞろえしたりすること。その客層分析を切り捨てたセリアは、商品開発については生身の消費者の動きに視線を注ぐ。
セリアと一緒に商品開発を手掛ける雑貨メーカーもスタンスは一緒だ。文具メーカーのサンノート(大阪府富田林市)の野口智史経営企画部長は『商品開発で重視するのは、なぜ売れていて、その背後にどんな欲求があったのかを突き詰めること』と話す。」としている(要約)。
セリアの商品戦略において他小売業はもちろんのこと、異業種においても大変参考になる。客層分析はCVS業態であるファミリーマート、ローソンでもそれぞれ今年7月、11月から廃止している。
小売業の利益の源泉は商品であり、製造業では製品、サービス業ではサービスそのものである。どの企業においても付加価値を生むものは主力のモノ・サービスに絞られる。
「商品開発はいつでも賭け(河合社長)。その賭けに対して膨大なデータを収集、分析する時間や費用もかけても、過去の結果から有意義な答えが見つかる保証はない。「答えが出ない問題は解かない」(河合社長〜日経MJ 2017年11月3日号)。
ここで気づくのは答えが出ないことに労力を費やしているのではないかという問題提起である。このジレンマに陥ってしまうとなかなか抜け出すことはできない。答えを見つけるまで試行錯誤し、会議や打ち合わせが頻繁になり、上司からの叱咤激励により辻褄を合わせようとする。つまりデータ分析でも付加価値を生まなければ、ムダそのものであり廃除しなければならない。
商品やサービスがお客さまに受け入れられるのは、ニーズがあるからである。そのニーズは大多数の需要につながるものである。ニーズのヒントは現場そのもの、SNS、不満の解消などにある。データ分析に振り回されずに、ここに企業の経営資源を投入することで活路が開けてくるのだ。
(1)ABC分析:構成比率の高いものから順にデータを並べ、たとえば、売上げ構成比80%までの項目をA(売れ筋商品)、売上げ構成比80%から95%までの項目をB、その他をC(死に筋商品)というようにランク付けし、パレート図を使って項目の重要度を分析する方法。