2017年2月20日

「当たり前品質から魅力品質へ」(コラム2017/02/20)

「当たり前品質から魅力品質へ」

企業にとってホームページは企業情報を提供する、販売・マーケティングにつなげるなどの機能を持っています。例えば各々の自動車メーカーのホームページを閲覧すると、商品である自動車の動力性能、ドライバビリティ、安全性、デザインなどの特徴を訴求しています。メーカーによってはハードである車に対して、車の楽しみ方、用途、趣味としての広がりを持たせたソフトの提案も行っています。ホームページをより効果的に運用するために様々な工夫を凝らしているようです。

中でも目を引くのがマツダのホームページです。それぞれの車の開発の経緯、生産にまつわるエピソード等を物語として顧客に伝えているところに特徴があります。その物語の数々が顧客のこころを捉えるのです。その物語のひとつ―「ロードスター RF 開発物語 Vol.4『生産工場の創意工夫が切り開く、設計&デザインの自由。』車両組立技術者 中村 貴樹」のインタビュー記事に目を奪われました。
マツダでは、正常に機能することや、異音や振動の発生を防ぐクルマづくりを“当たり前品質”と呼び、そのクルマらしさを特に力を込めて表現したいピンポイントの作り込みを“魅力品質”と呼んでいます。品質を二つの側面から切り分けて、「魅力品質」という言葉が能動的品質のように受け取れるのです。「当たり前品質」がミスのない品質であり、最低限保障されるべき品質です。

多くの企業が製品やサービスに対して品質の正常化を目標としている中で、もう一つ上の品質―魅力品質を掲げている企業はどれだけあるのかわかりません。生産に従事する社員にとって、会社が掲げる目標としてのテーマ(=言葉)によって、受動的となるやらされ感なのか、能動的になる自発性なのか、分かれると思うのです。マツダではデザイン、生産など各部署が一体となって取り組んでいるところに強みがあります。社員を動かすには全員が目指すべき目標より、その目標の背景にある考え方、納得感、行動を促す力があるのかどうかで決まるのです。朝礼で経営理念や経営目標を唱和することも大事なことかもしれませんが、人を動かすものは何かを突き詰める方が理にかなっています。経営幹部が現場に行き、現場を見て、現場と話し、実際どんな働き方をしているのか知ることから始めてみてはどうでしょうか。なぜなら企業体質は現場そのものにあるからです。

以下はマツダHPの抜粋です。

熱い創意をそのままにお客様の元へ届けるために。
難題に受けて立つ、という志

ロードスター RFが、生産現場にとって前例のないほど難しい1台になることは、その構想が決まった時点ですでに明らかでした。
「全体のイメージが示された開発初期の段階で、そもそも造れるのか、と思えるほどたくさんの課題が浮かび上がりました。そこで私は、いくつかの提案を持って、デザイナーやメカニズムを設計するエンジニアの下へ足を運びました。」

「例えば、ドアガラスの形状が、ソフトトップモデルでは後端が丸くデザインされているのに対して、RFでは角張っています。効率的で確実な生産のためにはソフトトップモデルと共通化することが望ましいと、私は伝えました。ところがデザイナーからは、美しいデザインのポイントであるだけでなく、良好な視界の確保等々、深く熟考された末に導き出された唯一無二のカタチで、絶対に妥協できないという熱い言葉が返ってきました。」

「生産に伴う苦労と、熟考されたお客様のための創意のどちらを採るのか、という話です。事情が分かった私は、もちろんうなずきました。やりましょう! そのための方策を創造するのが、私たちの仕事ですから。」
そしてロードスター RFの実現に向けた最大の難関は、美しいデザインと複雑なリトラクタブルハードトップの開閉メカニズムの両立にありました。

「デザインと機能の両面から徹底的に突きつめられたリトラクタブルハードトップの設計図を見たときに、これは尋常でないと直感しました。隣り合う部品同士が、ハードトップの開閉状態に係わらず、常に狭い空間の中にびっしり並んでいるんです。わずかでも組み付けがずれると、開閉動作の途中で干渉する可能性があります。

マツダでは、正常に機能することや、異音や振動の発生を防ぐクルマづくりを“当たり前品質”と呼び、そのクルマらしさを特に力を込めて表現したいピンポイントの作り込みを“魅力品質”と呼んでいます。ロードスター RFのリトラクタブルハードトップは、当たり前品質を実現すること自体に極めて高い技術力が求められ、そしてそれがそのまま魅力品質につながる雰囲気にあふれていました。

もし、たった1台をたっぷりの時間と何名もの組み付け職人で仕上げることが許されるのであれば、ハードルはそれほど高くないでしょう。けれどもマツダの製造ラインは、デミオからロードスターにいたる、あらゆるモデルが渾然一体となって流れてきます。そのような製造ラインの流れを滞らせることなく、何千、何万台というロードスター RFを高品質のまま安定的に造らなければならないということです。」

「どうするか? 知恵を絞って絞って、絞りきる。知恵と努力は、道を開きます。私に残された道は、それしかないんです。なぜなら私は、エンジニアやデザイナーの下に足を運んだ挙げ句彼らに説き伏せられてしまった、というわけではありません。彼らの熱さに、これは自分たちもやらなければ、と突き動かされたという感じなんです。よし、受けて立ってやるって決意したんですから、やらんわけにはいかんでしょう。」
(参照:http://www.mazda.co.jp/beadriver/experience/rf_develop/04_2/ )

熱く燃える27歳が奔走するその理由は?

本格的な量産を目前に控えたこの日、中村は額に汗を浮かべて、待ち合わせの時間ギリギリに駆け込んできました。訊くと、たった今まで工場で生産の手順を練りあげていたのだと。朝から戦いのまっただ中にいたのだと、そう教えてくれました。

「そんな毎日を過ごしているうちに、最近おもしろい感覚を覚えるようになってきたんです。あれ? 自分はマツダの社員なのに、マツダのために働いてるという感覚が薄れてきたなと。この部分はこういう手順で組み付けないといけないんだ!と自分やメンバーを鼓舞しているときに、頭の中にあるのはお客様のことばっかりになってきたんです。」

「ここで造りあげたクルマをお客様に迎えていただくとき、どんな表情を見せてくださるんだろう。きっと、笑っておられると思うんです。そして、長く楽しんでいただいた将来のある日、いったいどんな表情を見せてくださるんだろう。そのときも、きっと笑顔であってほしい。それを実現するのが、私の仕事じゃないかと思うと、私の頭の中にあるのは、マツダよりもお客様のことばかりになってきてるんです。格好を付けてるわけじゃなく、これが27歳の今の自分の本音なんです。」
(参照:http://www.mazda.co.jp/beadriver/experience/rf_develop/04_3/ )

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