2016年3月12日

「女性活躍推進の課題と展望」:楠田祐氏

楠田 祐

Yoshikoshi Koichiro

中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授

戦略的人材マネジメント研究所 代表

K’s HR Label 代表

東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。
2009年より年間500社の人事部門を連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。
多数の企業で顧問なども担う。シンガーソングライターとしても活躍。

主な著書「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得。

主なCDアルバム「破壊と創造の人事」(K’s HR Label)2015年6月
「残業イルミネーション」(K’s HR Label)2015年12月

女性活躍推進の課題と展望

男女雇用均等法の施行(1986年)から30年が経過した。
先進的な大手企業は、2000年〜2005年に女性活躍推進に対する取り組みをスタート。
アベノミクスでダイバーシティ対応が叫ばれるようになった2014年〜2015年にその他の多くの企業が取り組みを開始した。
霞ヶ関から遠い距離にある企業ほど、取り組みが遅い感触がある。

女性活躍推進の根本的な課題は4つある。

  1. 社長が自らの言葉で内発的に推進を語っているか
    何のためにダイバーシティ対応、女性活躍推進が必要なのかを言い続ける
  2. 男性社員が育児休暇を取得しやすい環境か
  3. (時間・空間)制約社員に対するピープルマネジメントができる管理職が多いか
    • 時間制約社員:時短勤務など時間的な制約を持ちながら働く社員(男女問わず)
    • 空間制約社員:育児や介護などの事情で転勤ができない社員(男女問わず)
  4. ワーキングマザーのストレス状況

2014年に取り組みを開始した企業に顕著に見られる特徴は、経営企画室や秘書室、人事が作成したダイバーシティへの取り組み姿勢の文書を社長が読むことに終始している。
この状況では、社員・管理職は、総論賛成、しかし各論では腹落ちしない状態のまま。

つまり、

課題1については、社長の本気度を社員が推し量って対応していると言える。
課題2:男性社員の育児休暇取得について

いわゆる「パターナリズム」がはびこっている。

(注釈)
パターナリズム=強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるようにと、本人の意志に反して行動に介入・干渉すること。
この場合、男性管理職に差別している意識はないが、「区別」をして介入・干渉している。

現場でよく聞くのは、男性社員が育休の取得を上司に申請すると、

  • 「奥さんが働いているのか?」(=奥さんは育児ができないのか?)
  • 「休んだら(君の)評価が下がるぞ」
  • 「こんなに忙しいのに、君は暇なのか?」

つまり、女性の育休は認めるものの、男性が休むのはマズイ、という趣旨のことを言われる。
パターナリズムは、家庭の事情で転勤を望まない男性社員に対しても発しられる。

課題3:制約社員のマネジメント

今や、20〜30代社員のマジョリティは、夫婦で子育てをしたい!と考えている。
旧来の役割分担(女性は家事と育児を担当、男性は働く)意識は変化している。
制約社員マネジメントの問題は、役割意識の変化だけが要因ではない。
2014年3月末に団塊世代の再雇用が終了した。

2020年のオリンピックイヤーには、団塊世代は70〜75才になり、要介護状態になる人が増えてくることが予想されている。
(注釈)健康寿命:平均寿命から介護(自立した生活ができない)を引いた数。
2012年に厚生労働省が発表した日本人の健康寿命は、男性で70.42歳、女性で73.62歳)

この頃には、バブル入社世代がコア人材になり、管理職になっている人も多いだろう。
核家族時代に生まれているため、夫婦それぞれが親の介護をしなければならない世帯も多いと思われる。
コア人材が親の介護で休職・退職することは、企業にとって大きな損失になるため、「2020年問題」と言われている。

もう1点、大きな問題がある。

育児休暇は、「祝福される出来事」であるため周囲の人に発表したくなるが、親の介護は、隠す人も多い。
昇格に響くのではないかという配慮が働くためだ。

いわゆる「隠れ介護」であるが、このことも、すでに課題として顕在化している。
以上の理由で、今後は、女性社員・男性社員とも制約社員が増えてくると考えられる。

対策は、2つある。

  • 1つは、管理職が、時間制約社員のピープルマネジメント力を身につけること。
  • もう1つは、短時間正社員のマネージャーや執行役員を登場させることだ。

超大手企業は、すでに手を打ち始めている。
例えば、長時間労働の見直しと業務効率(生産性)の向上。
推進本部を設け、短時間で生産性を高める業務の進め方を推進している企業もある。

もう1つは、働き方改革への取り組み。
フレックスタイム制や在宅ワークなどの内発的業務管理意欲を高める取り組みだけでなく、縦割り組織を廃し、事業ユニット制を敷いて開発効率を高める取り組みなど、組織改革への取り組みも始まっている。

課題4:ワーキングマザーのストレス問題

上手くいっている企業では、残った仕事を周囲に引き継ぎ、保育園に子どもを迎えに行くことができる環境。
うまくいかない企業では、仕事がたまっているが周囲に頼むことができず、電話で延長保育を依頼するが、それでも終わらずタクシーで保育園に向かう、という日々が続く。当然、家計に響くし、ストレスが溜まる。

しかし、管理職は、自身がプレイングマネージャーで余裕がないため、そのような状況が見えておらず、結果、放置されている。

ある企業では、時間制約社員が働き続けるためのプロジェクトが組まれている。
そのプロジェクトでは、「できない理由」を3回発言したらレッドカードで退場。
「いかにやるか!」を話し合い、知恵を絞ることが約束事になっている。

女性活躍推進は、女性の男性化ではないことを、しっかり意識することが大切。
最も効果的な解決策は、社長の意識醸成。
社長の意識が変われば、ウォーターフォールのように、その意識が管理職へ、そして社員へと流れていく。

女性活躍推進がなかなか進まない企業では、人事部、経営企画などが、社長が自分の言葉で必要性を語ることができるよう、社長の意識を変える方策を考える必要がある。

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